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横田英史の読書コーナー

《推薦!》財務省と政治~「最強官庁」の虚像と実像~

清水真人、中公新書

2015.11.11  12:33 pm

 55年体制の爛熟期から安倍政権にいたる大蔵省・財務省と政治との綱引きを追い、それを平成の構造改革や税制改革の文脈のなかに位置づけて解説した書。財務省が「最強官庁」「官庁の中の官庁」と称されてきた理由を、政治との関わりを中心に具体的事例を紹介しながら明らかする。いかに政治家が大蔵省・財務省に頼ったか、それは何故かが、本書を読むとよく分かる。大蔵省時代の過剰接待問題、住専処理、バブル崩壊、2001年に財務省になってからの小泉改革、リーマン・ショック、消費税増税、民主党政権など、政治の舞台裏でどういったことが進んでいたのかをいきいきと描く。筆者は日本経済新聞の編集委員で、20年以上の取材に裏付けられた分析力はなかなかのものである。
 本書を読んで感じるのは、予算の編成と執行にかかわる財務省の情報収集力の凄さ。多くの情報が自然と集まるだけではなく、政府や官庁、政党の要所要所に人材を送り込み、きっちりとネットワークを構築している。こうした情報を握る財務省の協力を得ないと政権運営は立ち往生し、政治主導を唱えていたものがいつしか財務省頼みに変質してしまう。例えば3.11時の民主党政権。このとき民主党は政府の体をなさず、どこで何が動いているのか訳がわからなくなった。結局、全体像を把握していた財務省がプランを書き、筋書きにそって政治家を動かす構造になったという。
 筆者はまえがきで、1994年の自民党の長期政権が倒れ、細川護熙首相を軸にした非自民政権が誕生した当時の「国民福祉税」構想をめぐるゴタゴタを振り返る。細川をはさんで小沢一郎と武村正義の確執が起こったが、大蔵省は官房長官だった武村に情報を上げていなかった。筆者は、大蔵省主計局が当時の政局を左右していた細川、小沢、武村のトライアングルの力学を的確に読んでいたことを紹介するとともに、大蔵省が最強官庁たる所以を明らかにする。このほか、大蔵省からの情報を基に外交・皇室情報などをあわせ、半年から1年先までの政治日程を書き込んだ竹下登手製の政治カレンダーの話も興味深い。

書籍情報

財務省と政治~「最強官庁」の虚像と実像~

清水真人、中公新書、p.300、¥950

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。