横田英史の読書コーナー
企業不祥事の研究~経営者の視点から不祥事を見る~
文眞堂
2015.10.3 8:37 pm
東芝の粉飾やドイツのフォルクスワーゲンの不正ソフト問題が新聞紙上を賑わせているが、本書は日本企業の不祥事を経営者の視点から実証的に分析した書である。企業不祥事の定義や不祥事を防ぐためのガバナンス、謝罪会見の勘所といった記述もあるが、最大の売りは10件の具体例。説得力十分で読み応えがある。書き口は分かりやすいので、371ページと結構なボリュームだがスイスイ読み進むことができる。筆者は「経営者視点で書いた」と冒頭で述べているが、そうでない方々にも十分に役立つお薦めの1冊である。優れた書だけに、東芝やフォルクスワーゲンも含めた増補版を期待したい。
本書が収録するのは、大和銀行の現地採用行員による巨額損失事件、カリスマ経営者に頼ったNOVAの破綻、東京ドームシティのアトラクションにおける死亡事故、安愚楽牧場の投資詐欺事件、大王製紙におけるワンマン経営者の巨額借入金事件、倫理なきプロフェッショナルが暗躍したオリンパスの粉飾決算、苦情窓口顧客からのクレーム情報を捨てたために被害拡大を招いたカネボウの美白化粧品事件、社内モラールの荒廃が生んだJR北海道のデータ改竄事件、みずほ銀行における反社会的勢力への融資事件、阪急阪神ホテルズのメニュー偽装事件である。すでに記憶が薄れた不祥事も取り上げており、頭の整理と陥りやすい罠の再確認に役立つ。参考文献に力が入っており、必要に応じてより詳しく調べることもできる。
書籍情報
企業不祥事の研究~経営者の視点から不祥事を見る~
文眞堂、p.371、¥3035
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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