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横田英史の読書コーナー

歴史と私~史料と歩んだ歴史家の回想~

伊藤隆、中公新書

2015.10.1  8:36 pm

 日本近現代史の研究者が、自らの歩みを振り返った書。お堅いイメージのタイトルで損をした感があるが、内容はとても面白い。日記や書簡、資料といった史料の収集にまつわる逸話、政治家や官僚のオーラル・ヒストリーの裏話など、興味深い話が次々と登場する。とりわけ、筆者の歯に衣着せぬ人物評が秀抜で楽しく読める。ここに注目するだけでも一読に値する。
 歴史家・伊藤隆の名前は知らなかったが、伊藤博文や山県有朋、木戸幸一、鳩山一郎、斎藤隆夫、佐藤栄作などの史料を収集・整理するとともに、岸信介や後藤田正晴や竹下登、渡邉恒雄などの回想録を手がけた人物と知り少々驚く。後藤田が色々と喋ったおかげで、後に続く官僚の口が軽くなったという話は興味深い。
 史料収集がいかに大変な仕事かは、本書を読むとよく分かる。例えば「これは」という人がいた場合、現役の方、遺族の方に100通の手紙を書く。返信があるのは20通。そのうち史料をもつと返信がくるのは10人に絞られる。さらに実際に史料があるのは5人という。そうかと思ったら。ひょんな偶然から貴重な資料と出会うこともある。ぶらぶら歩いて真崎甚三郎の家を見つける。これが日記をはじめとする真崎文書に出会うキッカケになったおいう。
 このほか学会と渡り合ったり、対談の相手を説き伏せてしまうケンカっ早い筆者のキャラクターもいい。例えば中央公論における司馬遼太郎との対談。「坂の上の雲」に関する話題で司馬を意気消沈させてしまう。結局、嶋中社長の判断で原稿はボツになってしまったという。

書籍情報

歴史と私~史料と歩んだ歴史家の回想~

伊藤隆、中公新書、p.294、4、¥950

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。