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横田英史の読書コーナー

原発と大津波、警告を葬った人びと

添田孝史、岩波新書

2015.9.26  8:34 pm

 元朝日新聞記者のジャーナリストが、津波や地震の原子力発電所への影響について、東日本大震災以前の十数年間に、専門家たちがどのように振る舞い、それがどう事故に結びついたのかを検証した書。けっして「想定外」ではなかったことを丹念な取材と資料によって明らかにする。「専門家に食い下がる知識と執念が足りなかった」とメディアの責任についても言及する。あの事故を忘れない、原発は今後どうあるべきかを考える上で貴重な情報を与えてくれる書である。朝日新聞と岩波書店という組み合わせは、どうしてもバイアスをイメージさせるが、その分を差し引いても知っておくべき内容を含んだ書と言える。
 筆者が注目するのは、原発をとりまく強固なエコシステム。電力会社は業界に都合のいい専門家を主に集めて、津波想定や対策を検討する。その報告書を受け取った保安院は、内容をチェックしないまま、電力会社の「安全性は確保されている」という言い分を鵜呑みにする。このサイクルが繰り返される。
 地震学者たちの最新の知見が反映される公正な仕組みや機会はなかったという。そして外部から検証できないように、報告書や議事録は情報公開は不十分だった。東電、電事連、保安院などによる「密室の合議」の連鎖のなかで、原発の津波脆弱性への警告は葬られ、それぞれの責任も曖昧になったというのが筆者のスタンスである。

書籍情報

原発と大津波、警告を葬った人びと

添田孝史、岩波新書、p.224、¥799

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。