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横田英史の読書コーナー

コーポレート・ガバナンス

花崎正晴、岩波新書

2015.6.23  11:41 am

 最近では東芝の不適切会計などで注目を集めるコーポレート・ガバナンスを扱った新書。日本企業のガバナンスの特徴をはじめ、金融危機当時の金融機関のガバナンスの実態、グローバル化との関連、企業業績との相関などを取り上げる。日本のコーポレート・ガバナンス構造が近年変貌し、ストックオプションの導入、持株会社の解禁、委員会設置会社制度の導入、社外取締役の導入など米国型に近づきつつあるが、企業行動や企業パフォーマンスは必ずしも米国型に変化していないと厳しく批判する。当初は真面目で退屈かなと思って読み始めたが、意外に刺激的で、読んでよかったと感じさせる新書である。

 特にメインバンク・システムの仕組みが、日本企業のガバナンスにとって有効に機能しなかったという指摘は興味深い。金融機関の株主としての効果は、製造業では優位にマイナス、非製造業では優位ではないもののマイナスと、身も蓋もない。顧客企業に対するモニタリング機能により、企業の設備投資を円滑にファイナンスし、日本経済の発展を後押ししたという通説は間違いだと断言する。

 このほか負債による規律づけには製造業、非製造業ともに有意な効果があるほか、国際的な競争のもとにある業種では効率性が高まると分析する。金融危機当時の銀行については、経営をモニターする役割をはたすべきガバナンスの構造に重大な欠陥があったとする。預金者によるモニタリング、市場競争の圧力、規制当局による規律づけがいずれも有効に機能していなかった。同業の銀行や保険会社を大株主に据えている銀行の経営者は、大株主と暗黙の結託ないし共謀することによって、経営実態を外部に隠蔽し、経営に対する株主からの規律づけを事実上免れる状態を作っていたと手厳しい。

書籍情報

コーポレート・ガバナンス

花崎正晴、岩波新書、p.224、¥799

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。