横田英史の読書コーナー
ドキュメント パナソニック人事抗争史
岩瀬達哉、講談社
2015.4.28 2:36 pm
パナソニックが経営不振に陥った一因を“歪められた人事”に求めたノンフィクション。著者は、この書評で取り上げた松下幸之助の評伝「血族の王」を書いた岩瀬達哉。内部に食い込んでいるだけに中身は詳細で読み応え十分である。水野博之 元副社長や井村昭彌 元取締役/元アメリカ松下会長などの幹部が実名で証言しており迫力を増している。実名で登場する幹部はさほど多くないが、新聞や雑誌の情報を活用してストーリーを組み立てるテクニックはさすがである。ただし槍玉に挙げている歴代トップへの直接取材は実現しておらず、この点は惜しい。残念なところはあるものの、復調著しいパナソニックの裏面史を連休中に振り返るのは悪くないだろう。
パナソニックの業績が長期にわたって低迷したのは、幸之助の“遺言”が原因だったという。幸之助は娘婿・松下正治を経営の一線から外すよう3代目社長の山下俊彦に言い残したにも関わらず、実行されなかった。4代目社長 谷井昭雄への申し送り事項になるが、これが悲劇を生む。谷井と正治会長の不毛な人事抗争が勃発したのだ。激しい対立は谷井が社長の座を追われることで決着するが、正治会長に一心不乱に仕え、「マルドメ(まるでドメスティック)」と称される森下洋一が後継社長に就いたことで経営改革は大幅に遅れた。イノベーションの波に乗り遅れることになった。
上司への忠誠と忍従の姿勢が評価された人間が相次いでトップに就いたこともあって、森下以降の歴代社長(中村邦夫、大坪文雄)に対する評価は散々である。特に「迷走と失速の7年間」を招いた森下の罪は重いと筆者は厳しく指摘する。ちなみに現社長の津賀一宏は最後に少し登場する。
書籍情報
ドキュメント パナソニック人事抗争史
岩瀬達哉、講談社、p.242、¥1490
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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