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横田英史の読書コーナー

入門 犯罪心理学

原田隆之、ちくま新書

2015.4.23  2:33 pm

 殺人や窃盗、薬物犯罪、性犯罪の防止や抑制に効果を上げつつある犯罪心理学の入門書。筆者は東京拘置所や少年鑑別所、国連薬物・犯罪事務所で犯罪者とかかわった経験のある大学准教授。ショッキングな犯罪が起こるたびに、何の根拠もなく無責任な“心理学風”なコメントをしたり顔で垂れ流す風潮を犯罪心理学への冒涜と嘆き、客観的で科学的なデータに裏打ちされた知見に基づいて犯罪を分析・解明することが重要だと主張する。犯罪者の治療の実際を具体的に紹介したり、「日本の臨床心理学はガラパゴス」と後進性を鋭く指摘するなど、得るところの多い新書である。犯罪について関心のある方にお薦めしたい。
 犯罪心理学を活用した犯罪抑制について、日本は先進諸国から大きく遅れているという。例えば薬物問題。犯罪心理学の知見によれば、刑罰には薬物問題の再犯抑止効果がない。社会での治療が最も効果的だという。ところが日本では薬物使用に対してもっぱら刑罰で対処し、他の選択肢がほぼ存在しない状態である。社会で治療を受けたくても施設が皆無に近い。
 犯罪治療には、「リスク原則」「ニーズ原則」「反応性原則」の3原則が存在するという話は興味深い。3原則を全て実行すれば再犯率は25%減。どれか2つだと17%減になる。しかし、どれか一つだと0.02%減にしかならない。3原則を無視した治療を行うと再犯率が増加してしまうという。ここでいうリスク原則とは、相手のリスクの大きさによって治療の強度を変えること。ニーズ原則とは、犯罪の原因になっている要因に絞って治療を行うこと。反応性原則とは、犯罪者が治療に反応して変化できるように、真に効果のある介入法を選択肢して実施することを指している。

書籍情報

入門 犯罪心理学

原田隆之、ちくま新書、p.245、¥886

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。