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横田英史の読書コーナー

<推薦!>〈科学ブーム〉の構造~科学技術が神話を生みだすとき~

五島綾子、みすず書房

2014.10.13  10:59 am

 科学技術政策をめぐるブームと神話がどのような仕掛けで起こり、どのような過程を経て消滅するのかを、1950年代の殺虫剤DDTと1990-2000年代のナノテクノロジーを題材に論じた書。ブームの構造を支える登場人物・組織がそれぞれ自分に都合の良い神話を同時多発的に語り始め、短期的な経済効果を求めブームを生み出す。一方ブームの終焉過程では、不確実性に起因する課題が浮上し、大衆は夢から現実に引き戻される。登場人物・組織の対立や離反が始まり、ブームはしぼむ。筆者は、ブームの誕生から終焉に至るまでの専門家の行動や専門家コミュニティの役割、政策担当者の行動を詳らかにしている。刺激的で示唆に富む指摘が多く、多くの技術者に読んでほしい良書である。

 DDTブームの誕生と崩壊は読み応えがある。DDTの殺虫剤としての威力は抜群で神話を生み出すとともに、農業用途で大量生産・大量消費のブームを引き起こした。大量散布は生態系に大きな影響を与えていたが、産業界の利権や科学者の保身によって危険性はベールに隠された。この問題に警鐘を鳴らしたのがレイチェル・カーソンの「沈黙の春」である。「沈黙の春」の登場によってDDTへの盲信は懐疑にかわり、産官学の思惑の違いが表面化した。「沈黙の春」に影響を受けたケネディ大統領の動きもあって、ブームは崩壊する。

 ナノテクは最近の話だけに生々しい。ナノテクに米国は威信をかけた。基礎研究段階だったにもかかわらず、派手なレトリックを駆使して、すぐに市場が立ち上がるような幻想をふりまいた。筆者はナノブームの構造を探り、誰が仕掛け、誰がどう踊ったのかを明らかにする。日本のナノブームにも目を向ける。日本では政府主導で経済効果への期待をふくらませたが、科学的根拠のないナノ製品の氾濫によって大衆の期待は失望に変わった。カーボンナノチューブをとりまく神話についての分析も興味深い。

書籍情報

〈科学ブーム〉の構造~科学技術が神話を生みだすとき~

五島綾子、みすず書房、p.288、¥3240

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。