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横田英史の読書コーナー

ブロックチェーン技術の未解決問題

松尾真一郎 他、日経BP

2019.9.16  3:18 pm

 ガートナー流に言えば「幻滅期」に入ったブロックチェーンが今後解決すべき問題を論じた書。複数の著者によるWebサイトITproの連載「ブロックチェーンは本当に世界を変えるか」を書籍化したものである。全体に薄味でコッテリ感に欠ける面がこそあるものの、ざっと要点を捉えるには役立つ。“なんちゃって”ブロックチェーンや、“無理やり”ブロックチェーンといった事例が跋扈するなか、今後進めるべき研究の方向性を明らかにしたお薦めの1冊である。

 本書は、ブロックチェーンの基礎、革新性の中身、4つの課題、トラストレスという幻想、性能がスケールしない問題、ビットコインの落とし穴(乗っ取りや2重使用攻撃、DoS攻撃)、開発体制の問題、世界の状況などについて紹介する。過剰な期待を捨て、現実を見すえた使い方を模索することが重要だと説く。評者としては、特にスケーラビリティを確保する研究動向を興味深く読んだ。

 筆頭著者である松尾真一郎・ジョージタウン大学教授は、「ブロックチェーンの本質的な価値を理解しないまま、ビジネスや金銭的な利益を優先して動いている」「バブル化の恐れがある」と危機感を募らせる。現在のブロックチェーンの技術レベルはフルマラソンでいえば1km地点を通過したところ、インターネットでいえば1990年相当と語る。ちなみに、ブラウザMosaicの登場が1993年である。確かにそんな感じだ。本書を読めば、今後大きく飛躍するためにブロックチェーンが解決すべき根本的な課題は少なくないことがよく分かる。

書籍情報

ブロックチェーン技術の未解決問題

松尾真一郎 他、日経BP、p.216、¥2592

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。