軌道 福知山線脱線事故〜JR西日本を変えた闘い〜

松本創、東洋経済新報社

 2005年4月25日に起こったJR福知山線脱線事故。列車が速度超過でカーブを曲がりきれずマンションに衝突し、乗客と運転士107人が亡くなり562人が重軽傷を負った大事故である。本書は、事故の再発防止には企業風土の刷新が不可欠だと考え、JR西日本に組織変革を迫った都市計画コンサルタント・淺野弥三一を軸にしたノンフィクション。元新聞記者の取材力を生かした知られざる話がもり沢山で、読み応え十分である。安全に対する考え方、原因究明の手法などEIS読者にも役立つ内容が多く、お薦めの書である。


 本書のポイントは、事故の原因を「運転士の個人的問題として終わらそうとする組織」と「誤った人間観と安全思想の歪み、ミスをミスとして認めない企業風土にあるとする被害者側」が対立から協調へと移っていく過程である。JR西日本は、弁護士をして「非常に硬直した、官僚主義の、責任や誤りを決して認めす、絶対に譲歩しない」と言わしめた企業である。そのJR西日本を、自らも被害者である淺野と、子会社から呼び戻され、同社で初の技術者出身社長となった山崎正夫が動かしていく。

 

 本書には“今”に通じるところも多い。例えば事実解明よりも組織防衛を優先するJR西日本の企業体質、文書の削除、官僚組織らしい慇懃無礼な文面といったエピソードが登場する。現在、国会やスポーツ界で進行中の話題と対比しながら読み進むと面白いかもしれない。複雑な問題を単純化して、責任を1カ所に押し付ける日本的解決法への批判など傾聴に値する。被害者側に一方的に肩入れするのではなく、バランスのとれた視点で事件を追う筆者の姿勢もいい。

書籍情報

軌道 福知山線脱線事故〜JR西日本を変えた闘い〜

松本創、東洋経済新報社、p.365、¥1728

横田 英史 (yokota@nikkeibp.co.jp)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。
日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現IT Pro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。
2003年3月発行人を兼務。2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。
その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月から日経BPコンサルティング取締役、2016年3月から日経BPソリューションズ代表取締役社長を兼務。2018年3月退任。2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所グリーンテックラボ主席研究員、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組み込み制御、知的財産権、環境 問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。

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