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横田英史の読書コーナー

サピエンス全史(下)~文明の構造と人類の幸福~

ユヴァル・ノア・ハラリ、柴田裕之・訳、河出書房新社

2017.3.15  6:00 pm

 「ホモ・サピエンスだけが食物連鎖の頂点に立ち、文明を築いたのはなぜか」という疑問に最新の研究成果を駆使して応える書の下巻。宗教や政治といった社会的な側面に焦点を当て人類の歴史を振り返る。ただし筆者の本音は最後に出てくる。最後に筆者は、生態系を脅かし、生物工学や生命工学、サイボーグ工学など「創造と破壊の神聖な能力」さえも手に入れかけているホモ・サピエンスの在り方に疑問を呈す。サピエンスによる地球支配は、誇れるようなものをほとんど生み出していないと述べ本書をしめくくる。

 下巻でます取り上げるのが宗教である。宗教については、古代の宗教は局所的かつ排他的で改宗させる意図はもっていなかった。普遍的で宣教を行う宗教が現れたのは歴史上屈指の重要な革命だったと位置づけ、人類の統一に不可欠の貢献をしたとみる。

 次に、科学と技術(テクノロジー)を取り上げる。そもそも科学と技術は別々の発展を遂げた。人々は新しい技術を開発したが、学者が体系的な研究を行うのではなく、無学な職人が試行錯誤を繰り返すことで生み出したものだった。17世紀初期にベーコンが科学と技術を結びつけたのは革命的な発想だったと評価する。

 科学の進展によって「進歩」という考え方が登場した。進歩という考え方によって、しだいに人類は将来に信頼を寄せるようになった。この信頼によって生み出されたのが信用である。信用が本格的な経済成長をもたらし、成長が将来への信頼を強め、さらなる信用への道を開いた。「利益が出たら生産に再投資し、再投資がさらなる利益をもたらす」という倫理観を生み、資本主義の進展につながった。

書籍情報

サピエンス全史(下)~文明の構造と人類の幸福~

ユヴァル・ノア・ハラリ、柴田裕之・訳、河出書房新社、p.296、¥2052

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。