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横田英史の読書コーナー

経済学者 日本の最貧困地域に挑む

鈴木亘、東洋経済新報社

2016.12.12  2:30 pm

 学習院大学教授の経済学者が、日本最大のドヤ街でホームレスや生活保護受給者が集中する「あいりん地区」の再生に取り組んだ3年8カ月にわたる奮闘を扱ったノンフィクション。橋下徹大阪市長(当時)を巧みに使いながら、猛烈に抵抗する役所や動かない警察、妨害を繰り返す活動家、改革の足を引っ張る大マスコミといった関係者を調整する、学者とは思えぬ戦略性と行動力には驚かされる。掛け値なく面白いので、正月休みに読む本に加えるのも悪くない。

 筆者はこう書く。「筆者が専門とする社会保障・社会福祉の分野では、改革として何をなすべきなのか、専門家の間ではおおむねコンセンサスが得られている。しかし実戦が伴わない、本書では、改革に必要なノウハウ、テクニック、戦略・戦術、段取りなどの方法論を描く」と。

 ちなみに大阪市西成区にある「あいりん地区」は日本の最貧困地域と呼ばれる。警察署周辺で白昼堂々と覚せい剤の取引が行われていたり、3人に1人が生活保護を受けていたり、最貧国並みの結核罹患率だったりする。大阪の他の区と比べ特に高齢化が進み、子育て層である若い世代が少ないなど、教育・子育て支援・環境改善・治安・住宅などで問題を抱える。そのあいりん地区の課題を解決するために生まれたのが西成特区構想であり、担当者として大阪市特別顧問に就任したのが社会保障・社会福祉分野を専門とする経済学者の筆者だ。

書籍情報

経済学者 日本の最貧困地域に挑む

鈴木亘、東洋経済新報社、p.470、¥2376

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。