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横田英史の読書コーナー

なぜ、無実の医師が逮捕されたのか~医療事故裁判の歴史を変えた大野病院裁判~

安福謙二、方丈社

2016.11.10  2:30 pm

 出産時に産婦が死亡し執刀医が逮捕された「大野病院事件」で、医師が無罪になるまでの経緯を担当弁護士が綴ったノンフィクション。筆者は、冤罪事件の温床となっている自白偏重や人質司法の問題点、牽強付会の鑑定の課題などに鋭く切り込む。検察寄りになりがちな裁判官の姿勢にも疑問を投げかける。しかも大野病院事件で検察は、医学的な知見を学ぼうとする意志も意欲もなかったと筆者は主張する。専門用語が頻繁に出てきて戸惑う場面もあるが、全体を読み通す上で支障はない。ちなみに大野病院事件が起こったは2004年12月である。2006年に医師が逮捕され、2008年8月に福島地方裁判所で無罪判決が下った。

 大野病院事件に対する評者の記憶はおぼろげだが、学会(日本産科婦人科学会)と医界(日本産婦人科医会)が立ち上がり医学界を揺るがす大きな事件に発展したという。しかも担当医師が逮捕された結果、大野病院産婦人科は閉鎖となり社会的事件になった。

 寡聞にして知らなかったのは、医療事故における事故報告書の問題である。遺族への補償を優先するには、保険が下りる必要がある。事故調査委員会は、「過失あり」とも読めるように書かなければならない状況に追い込まれる。畢竟、事故報告書にはバイアスがかかる。結果として、結論が歪められる可能性がある訳だ。

書籍情報

なぜ、無実の医師が逮捕されたのか~医療事故裁判の歴史を変えた大野病院裁判~

安福謙二、方丈社、p.317、¥1944

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。