横田英史の読書コーナー
犯罪の世間学:なぜ日本では略奪も暴動もおきないのか
佐藤直樹、青弓社
2016.5.10 6:47 pm
日本社会を「世間」というキーワードで解き明かした書。すべてを「世間」に収斂させる議論の進め方は牽強付会の感があるが、興味深い視点を提供してくれるのも確かである。日本人は法のルールに反するよりはるか手前で、世間のルールの反しウチからソトへと排除されることを常に恐れている。犯罪は世間と言う共同体の秩序を壊す行為であり、心理的なブレーキが働く。これがタイトル「なぜ日本では略奪も暴動もおきないのか」の回答である。
確かに世間のルールが法律を上回る場面に多く遭遇する。例えば刑罰不遡及の原則という近代法の大原則に反するむちゃくちゃな法律があっという間に国会を通る、法に反していない加害者家族が世間を騒がせたという理由で執拗に謝罪を強いられるという出来事も、圧倒的な世間の空気が生み出してきた。怖いのは、世間の空気に支配されることで、「いつのまにか」「知らず知らず」にモノゴトが進むことだ。気づいたときにはもう遅く、結局、「しかたがない」と無力感が漂うだけである。
書籍情報
犯罪の世間学:なぜ日本では略奪も暴動もおきないのか
佐藤直樹、青弓社、p.215、¥1728
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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