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横田英史の読書コーナー

辞書になった男~ケンボー先生と山田先生~

佐々木健一、文藝春秋

2014.4.21  12:00 am

 三省堂が出版する2冊の国語辞典「三省堂国語辞典」と「新明解国語辞典」を執筆した二人の編纂者、見坊豪紀(けんぼう ひでとし)と山田忠雄に焦点を当てたノンフィクション。四角四面と思いがちな国語辞書だが、これほど個性豊かだとは知らなかった。少し前に赤瀬川原平の『新解さんの謎』がベストセラーになったが、本書はその舞台裏を明らかにしている。言葉好き、日本語好きにはたまらない一冊である。ちなみに本書は、2013年にNHKのBSで放映された「ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~」を書籍化したもの。番組を見逃したのが悔やまれる。
 二人の編纂者のなかでも、とりわけ見坊は凄い。145万例という桁外れの用例を収集したという。この用例の数は人類史上最大ともいわれ、見坊は戦後最大の辞書編纂者と呼ばれる。ちなみに見坊と山田は、東京大学の同期生である。二人で一冊の辞書「明解国語辞典」を編纂していたが、あるとき袂を分かつ。見坊は三省堂国語辞典、山田は新明解国語辞典を担当することになる。この2冊で累計4000万部と、いずれも国民的な国語辞典である。二人の辞書編纂者の歩みと愛憎は、新明解国語辞典の語釈に反映されている。筆者は足を使った取材でその謎を1つずつ解いている。その執念に感服する。帯に「字引は小説より奇なり」とあるが、本書の価値を見事に言い当てている。
 新明解国語辞典には変わった語釈と用例が数多く存在する。なかでも筆者が注目するのが「時点」の用例。具体的には、「1月9日の時点では、その事実は変名していなかった」である。ここに二人の辞書編集者をめぐる謎を解く鍵が隠されているという。

書籍情報

辞書になった男~ケンボー先生と山田先生~
佐々木健一、文藝春秋、p.347、¥1944

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。