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横田英史の読書コーナー

チャーチル~不屈のリーダーシップ~

ポール・ジョンソン著、山岡洋一・訳、 高遠裕子・訳、日経BP社

2014.3.21  12:00 am

 チャーチルといえば、第2次世界対戦でドイツ軍が迫るなか行った演説「わたしが提供できるのは血と労苦と涙と汗、これら以外に何もない」である。小学生のころに伝記を読み、ボーア戦争に従軍し捕虜となったチャーチルが、収容所を脱走する下りにワクワクした記憶がある。本書は英国屈指といわれる歴史家が、チャーチルの波乱にとんだ一生を追った評伝である。抑揚を付けない淡々とした書き口なので、子供向けの冒険物語が頭の片隅に残る評者には、正直なところ少々物足りなかった。評伝のインパクトとしてはニクソンの著書「指導者とは」、チャーチルの生涯を概観する教科書的価値では本書といったところだろうか。
 筆者はチャーチルの人生からは多くのことが学べると冒頭で語る。具体的には、(1)身体面、精神面、知識面のあらゆる機会をどん欲につかむ方法、(2)大胆に行動し、成功すれば追撃し、いずれ避けがたい失敗に陥っても後に引きずらないようにする方法、(3)精力を注ぎ込み、楽しみながら強烈な野心を追求すると同時に、友情や寛大さ、思いやり、品位を養っていく方法の3つである。さらに付け加えるとすれば、ニクソンが著書「指導者とは」で言及してる、「指導者は明日の一歩先を考える」「指導者は歴史の針路を扱う」の具体例を学ぶこともできる。
 本書で特筆すべきは、野中郁次郎・一橋大学名誉教授による解説である。「チャーチルの『ウォー・リーダーシップ』から何を学ぶか」と題された解説は実に50ページ超。この部分だけでも、本書を読む価値がある。野中はこう書く。環境の不確実性、複雑性、多様性が高まり、予測困難な時代において、いかにして千変万化する状況に応じて、適時に最適最善の判断を行っていくか。その実践知のモデルを、われわらはウィンストン・チャーチルに求める、と。そしてチャーチルから、有事におけるリーダーシップには6つの能力が求められることを明らかにする。善悪の判断基準を持ち、「善い」目的を作る能力や「場」をタイムリーに作る能力などだ。リーダーシップに興味のある方は、野中の解説とニクソンの「指導者とは」とを併せて読むことをお薦めする。

書籍情報

チャーチル~不屈のリーダーシップ~
ポール・ジョンソン著、山岡洋一・訳、 高遠裕子・訳、日経BP社、p.325、¥1,890

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。