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横田英史の読書コーナー

不安定化する国際金融システム(世界のなかの日本経済:不確実性を超えて9)

翁百合、NTT出版

2014.3.6  12:00 am

 リーマン・ショック前と後における国際金融市場が抱える諸問題を俯瞰的した書。現在の国際金融システムが不安定性を高めている理由を探るとともに、どういった対応が可能かについて考察する。特筆すべきは解説の分かり易さだ。リーマン関係の書籍を何冊も読んだ。しかし筆者の説明ほどス~ッと腑に落ちる書は多くない。この書評でビジネス書・経済書を紹介したが、行きつ戻りつしながら筆者の意図を汲み取るケースが多く、本書は珍しい部類に入る。評者のような理科系の人間が、国際金融市場の過去・現在・未来をざっと知る上で最適な書である。
 本書のカバー範囲は広い。第1部と第2部では1980年代からリーマン・ショックまでの間に、金融システムがどのような変化を遂げたかを概観する。金融自由化や金融工学の進展、グローバル化が、先進国の低成長と長期的な金融緩和とあいまって、国際金融システムの不安定性を徐々に高めていったことを明らかにする。
 第3部で扱うのはリーマン・ショックと、それに伴う規制強化である。規制監督当局は、個々の金融機関の破綻を防ぐミクロな対策に加え、グローバルな金融システムへの影響を考慮するマクロの視点が求められていると主張する。カナダがリーマン・ショックで大きな打撃を受けなかった理由や、存在感が増している影の銀行への対処など、興味深い分析を行う。第4部ではギリシアに始まる欧州の債務危機や米国の金融緩和の出口戦略、財政問題が深刻化する日本の課題など、直近の話題を扱う。

書籍情報

不安定化する国際金融システム(世界のなかの日本経済:不確実性を超えて9)
翁百合、NTT出版、p.284、¥2,520

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。