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横田英史の読書コーナー

日本のエネルギー問題(世界のなかの日本経済:不確実性を超えて2)

橘川武郎、NTT出版

2014.2.18  12:00 am

 ゼロイチになりやすい日本のエネルギー政策について、定量的なデータに基づいた議論を展開し、現実的な解決策を模索した書。東日本大震災と福島原発事故後の日本のエネルギー政策について、示唆に富む提言が多くなされており役立ち感がある。筆者は2012年に「リアルでポジティブな原発のたたみ方」を提唱したが、本書はその後の状況を踏まえて執筆している。今後の日本を考える上で避けては通れないエネルギー問題に興味をお持ちの方にお薦めの1冊である。
 筆者はエネルギー問題の見直しには、四つの視点が肝要だと主張する。現実性、総合性、国際性、地域性である。この四つの視点から、原子力発電問題、電力改革、再生可能エネルギーの課題、省エネ、天然ガス、LPガス、石油、石炭について現状と今後を幅広く分析している。
 例えば原子力発電所の停止によってブラックアウトの危険が3回あり、電力供給のリスクはまさに「今そこにある危機」であることを明らかにする。しかし原発問題への対応は遅々として進まない。この点について筆者は、東京目線や大阪目線だけではなく、原発の地元の目線を取り入れない限り解決はありえないと主張する。さらに中長期的には原発事業を電力会社の経営から切り離し、国と民間電力会社の間の「もたれ合い」を解消すべきだという。電力改革については、発送電分離が有力な選択肢という立場をとる。
 個人的には天然ガスとLPガスについての論考が興味深かった。日本を含む東アジアの天然ガス調達コストが高い理由を、欧州とは異なりパイプライン網が整備されていないことに求める。国際標準に比べて二周遅れという。しかも日本の場合、パイプラインが寸断されており、天然ガスを柔軟に融通できない。LPガスの強みは分散型エネルギーであること。電気や都市ガスは、地震などによってラインが破損することで供給が止まる。しかしLPガスは、各家庭には使用中のボンベのほかに予備ボンベが備えられている。いわゆる「軒下在庫」が確保されているのだ。都市ガス普及地域である大都市が直下型地震等の災害に備えるために、あえて地域内でLPガスを部分的に使っておくべきだという主張は面白い。

書籍情報

日本のエネルギー問題(世界のなかの日本経済:不確実性を超えて2)
橘川武郎、NTT出版、p.241、¥2,415

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。