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横田英史の読書コーナー

アルゴリズムが世界を支配する

クリストファー・スタイナー著、永峯涼・訳、角川EPUB選書

2013.12.12  12:00 am

 タイトルの「世界を支配する」は少々大げさだが、金融市場を左右するなど存在感を増すアルゴリズムの実像を紹介した書。理系の人間にとってアルゴリズムは馴染み深いが、文系の方にもぜひ読んでいただきたいノンフィクションである。情報技術が進んだ現代社会や経済がどのような仕組みで動いており、将来的にどういった方向に進もうとしているのかが分かる。洋書が出た時に購入しようと思ったが、思いとどまって正解だった。こなれた翻訳なので、すいすい読める。
 アルゴリズムの歴史は古い。筆者はその歴史を丹念にたどっているが、科学史関連の書籍を読むことの多い評者には少々冗長に感じられた。アルゴリズムが脚光を浴びるようになったのは、ウォール街で金融商品の開発に応用されるようになってからである。本書はその辺りの経緯を詳細に描く。いまや全米の取引の60%がアルゴリズムによって導き出されたものという。エンジニアの学位もないハンガリー移民の成功物語など、人間臭いエピソードが多く楽しめる。
 アルゴリズムが幅を利かせているのは金融商品だけではない。しかし、アルゴリズムに対する拒否反応は根強い。アルゴリズムで作曲した楽曲の栄光と挫折について筆者は詳細に紹介しているが、これが実に面白く示唆的でもある。このほかチェスの世界チャンピオンと対決したディープブルー、CIAが関与した軍事的・政治的な予測、医療診断と投薬の判断など、アルゴリズムの応用の数々を本書は紹介する。その広がりには驚かされる。ちなみに筆者は、将来的に医者や弁護士の仕事の一部がアルゴリズムに取って代わられる可能性を示唆している。

書籍情報

アルゴリズムが世界を支配する
クリストファー・スタイナー著、永峯涼・訳、角川EPUB選書、p.374、¥1,680

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。