横田英史の読書コーナー
病の皇帝「がん」に挑む~人類4000年の苦闘~ 下
シッダールタ・ムカジー、田中文・訳、早川書房
2013.11.20 12:00 am
人類とガンとの闘いを描くノンフィクション巨編の下巻。禁煙などガン予防の話で始まり、分子生物学の進歩によるガンの原因究明にいたる長いの道のりを描いている。上巻に負けず劣らず興味深い話が満載である。ガンの根治に向けた医者や研究者の野心と一縷の望みを託す患者の思いが織りなす物語を、筆者はときに厳しく、ときに抑え気味に描いている。多くの方にお薦めできる1冊である。
ガンの根本的な原因が突き止められるまで、人類はガン細胞を理解しないまま闘っていた。結果として、外科手術も化学療法も、やみくもに極限まで進んでしまったというのが著者の見立てである。外科医はぞっとするようなレベルにまで手術を徹底したし、化学療法家は、「結局のところ毒である抗ガン剤の投与を増やし、ガン細胞を知らなくても毒殺できる」レベルに到達してしまった。
本書を読むと、人類は試行錯誤の末にガンの原因にたどり着いたことがよく分かる。何度も行き詰まりながら、ときには捏造事件も起こしながら、英雄的な活躍をする研究者に支えられ少しずつ歩を進めていった。最終的には分子生物学によって、遺伝子の突然変異の蓄積が原因だったことが明らかになった。原ガン遺伝子の活性化とガン抑制遺伝子の不活性化が起こり、正常細胞から悪性細胞まで段階的にステップを踏んで移行する過程を、著者は分かりやすく書き切っている。
書籍情報
病の皇帝「がん」に挑む~人類4000年の苦闘~ 下
シッダールタ・ムカジー、田中文・訳、早川書房、p.402、¥2,205
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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