横田英史の読書コーナー
避難弱者:あの日、福島原発間近の老人ホームで何が起きたのか?
相川祐里奈、東洋経済新報社
2013.10.2 12:00 am
福島原発事故の際に、周辺にある9つの老人ホームで起こったことを、職員たちへの丹念な取材をもとに綴ったルポルタージュ。自ら避難できない老人を被った被害や職員たちの葛藤が描かれている。不安に苛まれながらも奮闘した職員や介護士たちの仕事ぶりは感動的である。筆者は読売新聞を退職し、国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会に参加した。委員会の解散後、フリージャーナリストとして現地を歩いて著したのが本書だ。被災者たちへの思いがぎっしり詰まった良書である。
身体が不自由だったり、病気だったり、体力がなかったりする老人を多く抱える老人ホーム。福島第1原発から30キロ圏内の老人ホームに、政府から退去命令が出される。通信手段は断たれ、道路は渋滞し、県市町村の命令系統はズタズタ。こうした状態のなか老人や老人ホームの職員は、行くあてもなく、乗るクルマの手配が十分でない状態で放り出される。食料や水がない、寝る場所もないといった状態で、老人ホームによっては福島県だけではなく県外までさまよった。当時の混乱ぶりを本書は克明に描く。
書籍情報
避難弱者:あの日、福島原発間近の老人ホームで何が起きたのか?
相川祐里奈、東洋経済新報社、p.285ページ、¥1,890
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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