イベント・リポート NO-25 [2008年9月5日]
キャッツ株式会社
「ZIPC誕生 20周年、第14回ZIPCユーザーズ・カンファレンス」
新横浜プリンスホテル

数少ない純国産のCASE(Computer Aided Software Engineering)ツール、ZIPCを開発・販売し、日本の組込みシステム市場において確固たる地位を築きつつあるキャッツ株式会社が第14回目のZIPCユーザーズ・カンファレンスを去る9月5日に新横浜プリンスホテルで開催した。

ほぼ満員の盛況を見せた会場の様子

(当日のプログラムの詳細は、同社のwebサイト、http://www.zipc.com/
users_conference/
で確認できる)

キャッツ(株)によれば、ZIPCが最初に開発されたのが1988年で、人間でいえば今年はちょうど成人式に相当する、20周年にあたるとのこと。この記念すべき年に開催された今年のユーザーズ・カンファレンスには約300名ほどの参加者が集まり、会場がほぼ満席で埋まる盛況を呈していた。


ZIPC誕生のきっかけ

開発当時の思い出を語る上島社長

状態遷移表からシミュレーション、コード生成、デバッグなどの機能を提供するZIPCは、日本の組込みソフトウェア開発の現場におけるデファクト・ツールともなりつつあるが、このツールはどのような経緯で開発されたのであろうか? キャッツの上島社長によれば、今から20年前の1988年、キャッツの前身であるテスコ株式会社では、変電所の総合制御システムを開発していたが、この制御システムに搭載するバグのないソフトウェア開発に大いに苦労していた。あらゆる状態の遷移やイベントの発生に対応した処理にモレやヌケが生じないように、状態遷移表をベースにした開発を行っていたものの、状態遷移図、遷移表の作成からソフトウェアのコーディングをすべて人海戦術に頼って行っていた。しかし、この当時でも「ソフトウェアが制御する状態の数は数千から数万あり、処理する事象の数は数百から数千の規模となり、すべての事象と状態の組合せは、数十万から数億の規模に達し、それらすべてを状態遷移表に記述すると畳、2畳分の規模にもなった」とのことだ。そこに登場したのが、当時入社間もない、現副社長兼CTOの渡辺政彦さん。この頃の渡辺さんは、日焼けした顔に長髪というサーファーの風貌だったらしいが、このテスコの開発現場を見て、すぐに「この作業は、全部自動化できます。」と豪語したらしい。ただし、「そのためには、ワークステーション(WS)が必要です。」と言って、上島社長に当時は高価だったHP社のWSの購入を促したそうだ。上島社長は、渡辺さんの力量を信じて、HP社のWS(HP-9000)を購入した結果、現在のZIPCの原型となるTOOLが英語版として完成したのである。

上島社長は、渡辺さんが開発したこのツールが社内の開発の現場で非常に有効であることを実感して、翌1989年にZIPCを外販するために別会社、「キャッツ株式会社」を設立した。そして、1993年には日本語対応のUNIX版 ZIPC Ver2.0を発売した。上島社長によれば、最初の顧客は大手複写機メーカーだったそうだ。その後、ZIPCはNECのマイコン統合開発環境に組み込むためにWindows 3.1への移植が行われ、その後の普及に大きな弾みになった。

NECのICEとZIPCの連動を実現した時代を示した展示

このように、現在のZIPCは、渡辺さんの高い技術力と、渡辺さんの力量を見込んで開発を即断した上島社長の卓越した先見性によって生まれたものである。
このイベントの会場には開発直後から現在に至るまでのZIPCのマニュアルやドキュメントが時代を追って展示され、その中にはNECのICEとの連動を実現させた当時の状況を示す展示があったのが目に留まった。

数多くの導入、適用事例発表

今年のZIPCユーザーズ・カンファレンスでは、(株)デンソーでの社員教育での適応事例、シチズン時計(株)における腕時計開発での使用事例、日本ビクター(株)におけるカーステレオ開発への導入事例、(株)日立情報制御ソリューションズにおけるカー・オーディオ・システム開発におけるUMLとZIPCの併用の事例などが紹介された。
これらの発表の概要は、キャッツが発行している広報誌「ZIPC WATCHERS Vol.12」にも掲載されている。
このように、キャッツのユーザーズ・カンファレンスでは毎年多くユーザーから適用事例が発表されているが、これはZIPCが日本の組込み開発の現場に深く静かに浸透してきたことを示すものであり、同社のこれまでの地道な営業活動の結果でもあると感じさせられる。

今後の製品展開

今後の製品展開について説明した渡辺副社長

このイベントの最後には、渡辺政彦副社長が登壇し、同社の今後の製品開発計画と近くリリースが予定されている新製品の概要を紹介した。同社では、組込みシステム開発における世界的な潮流と開発現場の動向に対応したZIPCファミリの進化と製品展開を図る考えだ。
まず、ZIPCの次期リリース版、V9.2ではコードの差分管理機能を強化することを明らかにした。V9.2では、状態遷移表にイベントを追加した場合でも、生成されるコードの差分が最小に収まるようにコード・ジェネレータに改良を施す計画だとのこと。
また、ZIPCの機能を補強する開発中の新製品として、ZIPC AUTOSAR、およびZIPC FeatureとZIPC SPLMが紹介された。これらはいずれも同社からすでにプレス発表されており、同社のwebサイトでもその概要が紹介されている。
AUTOSARの仕様に準拠した開発をサポートする、ZIPC AUTOSARは2009年3月にリリースされる予定になっており、同社では将来的にADLやSysMLなどで記述された構造図もサポートする計画であることを明らかにした。
同社では、システムの「振舞い」をモデリングして開発を行う現在のZIPCをZIPC Behavior、システムの構造をモデリングして開発するZIPC AUTOSARをZIPC Staticとも呼び、将来的には両者を統合したツール、ZIPC NEXTを開発することも計画している。
一方、開発対象となる幅広いシステム製品の機能を基本から見直し、可能な限りソフトウェアの共通化と検証済みソフトウェアの再利用を図る、プロダクトライン開発手法が注目されているが、これを支援するために開発されたのが、ZIPC FeatureとZIPC SPLMであり、これらの製品は近く正式にリリースされる予定のようだ。
ZIPC Featureはシステムのドメイン分析に使用されるフィーチャー図の作成と検査を行い、ZIPC SPLMは開発される製品のバリエーションを一元的に管理するためのツールだ。
渡辺副社長は、このようなZIPCファミリの進化と製品展開に合せて、ZIPCによる設計の基本になっている拡張階層化状態遷移表(EHSTM)についても改良、進化させ、新たにEHSTM V3.0を開発中であり、すでにそのドラフトをユーザ−に公開して、意見を収集中であることを明らかにした。EHSTM V3.0では、前述の振舞いモデルと構造モデルとの連携も検討されているとのことであった。
このようにキャッツはZIPCファミリの進化と機能拡張を着実に実現しているが、長期的に見れば、Telelogicを買収したIBMのような巨大企業との戦いが避けられないかもしれない。数少ない純国産のCASEツールのベンダとして、国際的な市場への本格進出も必要になるかもしれない。上島社長、渡辺副社長をはじめ、同社の技術、営業、マーケティング・スタッフの皆さんの今後の活躍に期待したい。

EIS編集部 中村正規

バックナンバー

>> ZIPC誕生 20周年、第14回ZIPCユーザーズ・カンファレンス

>> Embedded System Conference Silicon Valley 2007 <NO−2>

>> Embedded System Conference Silicon Valley 2007 <NO−1>

>> 日本TI 、MSP430: ATC2006 〜アドバンスド・テクニカル・カンファレンス2006〜

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>> Digi Embedded Network Forum 2006

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>> ETソフトウェアデザインロボコン2005

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>> ALTERA PLD WORLD 2004

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>> ESC San Francisco 2004 NO−2

>> ESC San Francisco 2004 NO−1

>> EDSF2004, 第11回FPGA/PLDコンファレンス

>> Semicon Japan 2003