イベント・リポート NO-16
Embedded System Conference(ESC)サンフランシスコ 2005、No-2
3月8日〜10日 at モスコーネ・センター

リポータ : EIS編集部 中村

Green Hills、Express Logic、ENEA、QNXなどのRTOSベンダ

昨年のESCではソフトウェア・デバッグ・ツール、「TimeMachine」にひっかけて「Back to the Future」のデロリアンを思わせるクルマを展示して、我々を驚かせたGreen Hills Software社だったが、今年は説明員が皆、ガートマンだか警察官のような帽子をかぶっていた。これは何を意味するのか尋ねたところ、答えはズバリ「security」ということであった。これは、同社のINTEGRITY RTOS上でLinuxなどのゲストOSを高いセキュリティを確保しながら動作させるPadded Cell virtual computing環境、INTEGRITY PCのプロモーションだと理解した。同社は、トレース機能を内蔵していないプロセッサでも、Multi-TimeMachineを使用したトレース機能を可能にするツール、TraceEdgeを発表して、ブースでもデモンストレーションしていた。また、同社のブースには、今年も日本の代理店である、アドバンスド・データ・コントローズ社の幹部の皆さんが顔を揃え、日本からの来場者に対応していたのには感心した。

 

プレゼンテーションする人もお揃いの帽子をかぶっていたGreen Hills

RTOS、ThreadXでお馴染みのExpress Logicのブースに設置されたステージには大勢の人が集まっていた。何でこんなに人を集めているのか?と人ごみをかき分けてステージに近づくと、そこでは何とマジック・ショーの真っ最中だった。同社はマジック・ショーだけでなく、会期中に多くのプレスリリースを発表して注目を集めていた。その中のひとつが、同社のThreadXを採用した機器の出荷台数が2億台を超えたという発表だった。インク・ジェット・プリンタを筆頭にワイヤレス・ネットワーク機器、ベースバンド・コントローラなどが主な用途のようで、採用した顧客名の欄には日本企業が並んでいる。その他、同社はアナログ・デバイスのADSP-BF534、536、537のBlackfinプロセッサに対するサポートなども発表した。その他のRTOSベンダの中で目についたのがENEA Embedded Technology社のブースだった。同社は、今年後半、非対称マルチプロセッサに対応したRTOS、OSE ASPを提供することを発表していた。最初にサポートされるのはFreescale社のデュアルPowerPCコア・プロセッサ、8641D やBroadcomの通信用プロセッサ、BCM 12xx、14xxなどになるらしい。このOSE AMPは非対称マルチプロセッサのシステムのタスクを自動的に分散させ、負荷のバランスを確保するとのことだ。
また、カナダのRTOSベンダ、QNX SoftwareもNeutrino RTOSや各種のライブラリやユーティリティをセットにした新製品、QNX Platform Core Source Kitをプロモーションしていた。通信、マルチメディア用途のプロセッサに対するサポートを拡大しているQuadros Systems社のブースも目に留まった。

 

大勢の観客を集めたExpress Logic社

 

垢抜けた感じのENEA Embedded Technologyのブース

 

QNX Softwareのブース

 

Quadros Systemsがサポートするプロセッサ

拡がりを見せる組込みデバイス向けEclipse統合開発環境

今年のESCで目立ったことといえば、オープン・ソースのEclipse統合開発環境が大きな拡がりを見せていたことだ。昨年夏ごろまで、Eclipse統合環境に対するサポートを表明していたベンダは、QNX Software、MontaVista、TimeSysなど数社に留まっていたという記憶があるが、今年のESCでは、前述のメンターグラフィックス(ATI)、ENEAなどのOSベンダからもサポートが発表され、これまでEclipse対応を前面に出していなかったツール・ベンダなども「Eclipse」という言葉を積極的に使うようになった気がした。

Eclipse Foundationのブース

小生にはJava開発者のためのものという印象があったEclipse統合環境が組込み分野で一挙に拡大した印象だ。 特に、Wind River社は、Eclipseの業界団体、Eclips Foundationの戦略的メンバーとなり、Eclipse Foundationと、Eclipseデバイスソフトウェア開発プラットフォームプロジェクトを立ち上げることを発表して注目を集めていた。今年のESCの展示会場には、Eclipse Foundation, Incのブースもあり、各社のサポート状況などが示されていた。

テスト・ツールのベンダ

最近の組込みシステム開発における最大の課題は、最終製品の複雑化、多機能化に伴って増大するソフトウェアを如何に効率的にしかも高い品質で開発するかだろう。この課題は世界共通のようで、ESCでもこの課題に対応したツールの展示が昨年よりも増えたような感じがした。例えば、MISRAC解析ツールのCosmic Software社、抽象解釈の理論を用いた静的検証ツールのPloySpace Technologies社、コード解析ツールのGrammatech社のブースが目にとまった。小生が特に注目したのが、韓国のSureSoft Technologiesという会社だ。3年程前に設立されたこの会社はCodeScroll API Testerと呼ばれるCまたはJavaコードのテスト・ツールを展示していた。このような展示会で韓国の会社がテスト検証ツールを出展しているのは少々驚きだった。組込み技術の先進国、日本でもこれらテスト、検証ツールの分野に対する関心が高まっているが、まだこのような展示会に出て、評価を問うベンダが現れないのは、どうしたものだろう?

 

SureSoft Technologies の展示パネル

 

GrammaTechのブース展示

日本からの出展社

このイベントには、日本からも大手半導体メーカーを除く、いくつかの会社が出展していた。その中でもっとも広いスペースを確保していたのが、広島のインタフェース社の現地法人だった。その他には、ハギハラ・シスコムの米国法人や、EMSの長野沖電気なども出展していた。また、横河ディジタルコンピュータの製品は横河電機の米国法人のブースに展示されていたし、ソフィアシステムズのブースも米国の提携企業、Nohau社に隣接した形で設置されていた。今年、日本から意欲的な出展を見せたのは、ボード・コンピュータのアドバネット社だった。同社は先頃、米国のハードウェア/ソフトウェアの設計会社、RADIC Technologies社と提携し、米国市場への本格参入を目指すと発表していた。同社のブースには、田中社長を初めとする幹部の皆さんが顔を見せて、製品の説明にあたっていた。  このようなイベントに出展されるボード・コンピュータは台湾製が圧倒的に多いのだが、インタフェースやアドバネットのような日本企業が頑張っているのは頼もしい限りだ。

 

今年も浮世絵が目立ったインタフェース社

 

意欲的な出展を見せたアドバネット社

今年のキーワードはワイヤレス

Wireless Networking Design Seminarの様子

さて、アプリケーション分野別でいうと、今年、ESCでもっとも取り上げられたキーワードは、「ワイヤレス」だったような気がする。展示会場のパネルには、ZigBee、WiMAX、UWB、WPAN、Software Definition Radio(SDR)などの文字が多く見られ、展示ブースにZigBee Allianceのメンバーであることを示すサイン・ボードを掲げている出展社もかなり目についた。会期中、Wireless Networking Design Seminarというカンファレンス・プログラムも開催されていた。ここでは、Personal Area Wireless Sensor Networkの解説、IEEE 802.15.4aの標準規格に関する各企業からのプロポーザルの紹介、UWB用アンテナのモデリング方法、次世代ワイヤレスLANやUWBの設計法など、興味深いテーマが取り上げられ、会場は熱心な聴講者で埋まっていた。

展示会場で興味を持って見たのは、カナダのDynaStream社の2.4GHz帯を使用したWPANのデモだ。この会社はANTと呼ばれる独自のワイヤレス・センサ・ネットワーク・プロトコルを開発し、その技術をノルウェーのNordic Semiconductor社が低消費電力のトランシーバ・チップとして製品化している。DynaStream社によれば、このチップは腕時計用の電池で約4年間の連続動作可能なので、広範囲の用途に使用できるとのこと。展示ブースには、この応用として万歩計のようなランニング距離計、スキーの板と靴の装着状態表示システムなどが展示され、自動車レースでのスピードを検出してデータ転送するデモも行われていた。

 

DynaSteam社によるANT Wireless Personal Area Networkのデモンストレーション

その他のトピックス

○ TRON 北米会議

今年もTRON北米会議が展示会場そばのホテルで開催された。今年の会議では、iTRONに関する議題はなく、横河ディジタルコンピュータの武井取締役が「T−Engineプロジェクト」についての紹介と現状報告を行っていた。この会議は豪華ランチ付きだったにもかかわらず、米国の現地企業からの参加者が少なく、ちょっと残念な気もしたが、日本市場でのビジネスを狙う出席者からは活発な質問が出ていた。米国では、ITRONやT-Engine(kernel)について、まだまだ知らない人が多いのは事実のようで、今後も海外での継続的な広報、宣伝活動が必要になるだろう。

 

TRON北米会議で講演した武井さんと会議の様子

○ 活躍するPR会社の女性達

昨年のリポートにも書いたような気もするが、ESCのような国際的な展示会の裏で大活躍しているのが、Public Relation (PR)会社の女性達だ。このイベントには、世界各国から主要なメディアの記者や著名なアナリスト達がプレス・ルームに集まってくる。各企業の広報活動を担当しているPR会社は、プレス発表会や記者達との個別ミーティングを設定して、来場する記者やアナリストの争奪戦を展開する。小生のような無名の記者にも展示会開催前から面談の申し込みが数多くあった。こうしたPR会社どおしの記者争奪戦の最前線に立っているのが、ほとんどの場合、女性である。彼女達のクライアント企業は、複数にわたる。このため、登録されたプレス関係者のリストを活用してESC出展していない企業の幹部をも会場に連れてきて、記者達とのミーティングもセットアップすることまであった。

話題のボールはこちら

今年はプレス・ルームに通ずる廊下で、記者達にプレス発表会への参加を呼びかけるプロモーションを朝から長時間にわたって行っている女性達がいた。彼女達は、廊下を通る記者達に写真のようなボールを渡していた。ご覧のように、このボールにはM-Systems社が開催するプレス・カンファレンスの時間が印刷されていたのだ。いやはや、彼女達の熱心さにはただ敬服するばかりだ。ただし、小生は残念ながらこの時間帯に他の出展社との先約があり、このプレス・カンファレンスには参加することができなかった。(ごめんなさい!)

○ 思いがけない人達との遭遇

ハイレベルなシステム・シミュレータ、CoMETを提供し、日本のETにもこのところ欠かさず出展しているVast Systems Technology社も勿論、ESCに出展し、CoMETの最新バージョンをプロモーションしていた。この会社のブースには日本代理店である、ガイア・システム・ソリューションの八谷さんも顔を見せていたのだが、そこには、ここ2年間、海外からETに直接出展しているStarCore LLCのAllen Hyman氏の姿もあった。

Vast Systemsのブースでお会いした
八谷 さん(中)とHymanさん(右)

Vast社のツールがStarCoreのDSPコアをサポートしているため、Hyman氏もテキサスから応援に駆けつけたのだそうだ。また、初日の展示会場では、大昔、ある会社のLSI製品のプロモーションで一緒に汗を流した古いアメリカの友人や、ET2002で基調講演された元ソニーコンピュータエンターティメントの岡本伸一さん、日本から見学に来られた有力ボードメーカの幹部の方など、普段ならめったにお目にかかれない皆様とお会いすることができたのも大きな収穫だった

まとめ

以上、今年のESCで目に留まった企業や製品などを中心に紹介するとりとめもないリポートとなってしまったが、やはりESCには毎年、顔を出すだけの価値があると感じた。出展社の数が減少し、来場者も1万人程度と日本のETの半分とはいえ、カンファレンス・プログラムと充実ぶりと展示会の運営、プレス関係者への対応など、ESCのから学ぶことはまだありそうだ。ただし、展示会の開催時間が、初日が午後1時から8時まで、2日目が午前10時から午後7時まで、最終日が午前9時から午後2時までと変則的だったのだけは感心できなかった。出展社と来場者の減少に伴ってSan Franciscoでの開催は今年で終わることになり、このイベントは来年からまたSan Joseに戻って開催されることになった。
確かに、サンフランシスコの市内で会う人は、ESCの関係者よりも、同じモスコーネセンターの西館で開催されていたGame Developers Conferenceの参加バッジを下げている人のほうが圧倒的に多いような気がした。
このイベントを通じて痛感したことは、やはり日本は情報家電などを中心にした組込みシステム開発の重要な拠点になっていること、日本企業は自社の優れた技術を世界に向けてもっと発信すべきだということだ。
つまらないリポートに、最後までおつきあい頂き、有難うございました。
EIS編集部 中村正規

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