イベント・リポート NO-20
ESC Silicon Valley 2006 その1
4月3日米国カリフォルニア州サンノゼ

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会場となったサンノゼ・コンベンション・センタの入り口

4月3日から米国カリフォルニア州サンノゼで開催されたEmbedded System Conference Silicon Valley(以下、ESC SVと呼ぶ)を見学、取材してきた。このイベントは昨年までサンフランシスコのダウンタウンにあるモスコーネ・センターで開催されていたのだが、出展社と来場者の減少に伴って、以前の開催地である、シリコン・バレーのサンノゼ・コンベンション・センタに戻ってきた形となった。我々のような海外からの来場者にとっては、空港からのアクセスが便利で、ホテルやレストランのオプションが多彩にあるサンフランシスコから会場が移動したのは、誠に残念なことである。展示会が開催されたのは4月4日の午後からだったのだが、生憎、当地は連日の雨模様。何でも3月の降雨量としては過去最高を記録したらしい。この雨、展示会の会期中も降り続き、最終日の昼ごろからようやく、太陽がのぞく異常な天候であった。

今年のキーワード、DSOとWind River社

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DSOの文字が目立つWind River社のブース

今年のESC SVでのキーワードを挙げろと言われれば、小生はまず「DSO」という言葉を挙げる。DSOとは、Wind River社が確か2年前のESC San Franciscoで言い出した、「Device Software Optimization」の略だ。「Embedded Software」を「Device Software」と言い換え、その開発手法、プロセスの最適化、標準化を目指す言葉だと理解してもいいだろう。小生はついこの間までDSOという言葉はWind River社の専売特許だと思っていたのだが、最近はGreen Hills社のようなほかのOSツール・ベンダも「DSOプロバイダ」などと名乗るようになってきた。ESCの主催者でもあるCMP Publicationsは、DSO.comというwebサイトを開設して、この「DSO」という言葉の普及に一役買っている。
例年であれば、展示会入り口のすぐそばに大きなブースを構えるWind River社のブースがESC SVでは例年の2分の1程度に縮小され、その替り、Wind River社のブースに隣接した形で「DSO World」という大きなパビリオンが設置されていた。毎年ESCでは、奇抜なブースを設置する印象があるWind River社の今年のブースにはご覧のように、「I Am DSO」の大きなサインがあり、隣接する「DSO World」パビリオンではWind River社をはじめとする企業がプレゼンテーションを行っていた。この「DSO World」パビリオンには、Wind Riverの他、Intel、IBM、Freescale Semiconductorなどのプロセッサ・ベンダから、OSDL、Eclips Foundationのような業界団体、SolidやEncirqのような組込みデータベースの企業など、多様な企業が参加し、パビリオン内部のプレゼンテーションステージには比較的多くの聴衆が集まっていた。会期中に実施されたプレゼンテーションの内容はこちらで確認することができる。

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ENEAの看板が目立ったDSO Worldパビリオンの様子とパビリオンの参加企業を示すサイン

Wind River社は会期中に同社のコンシューマ機器用開発プラットフォーム、「Wind River Platform for Consumer Device Linux Edition」でインテルの次世代XScaleアプリケーション・プロセッサ(コードネーム:Monahans)をサポートすると発表していた(EIS[ESC速報25])。

QNX、Mentor、Express Logic社などのRTOSベンダ

Wind River以外のRTOSベンダの中で今年、存在感を示していたのがQNX Software社だったかもしれない。プレスルームに届けられた数多いプレスリリースの中でもっとも印象に残ったのが、QNX社の「Neutrino Multi-Core Technology Development Kit(TDK)による、マルチコア・プロセッサに対する包括的なサポート」([EIS速報14])だった。

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Neutrino Multi-Core TDKの操作画面

Neutrino RTOSをベースにしたこのMulti-Core TDKは、asymmetric multiprocessing (AMP) 、asymmetric multiprocessing (SMP)、およびbound multiprocessing (BMP)をサポートできるとのこと。サポートされるマルチコア・プロセッサとしては、Intelの Core Duo Processors、 T2500とL240、Broadcom社の BCM12xx dual-coreおよびBCM14xx quad-coreプロセッサ、Freescale 社のdual-core PowerPCプロセッサ、MPC8641Dである。

一方、iTRON仕様にも準拠したRTOS、Nucleusを提供しているMentor Graphics社は今年も最大級のブースを構えていた。同社のブースは、Nucleus RTOS、ミドルウェア、ソフトウェア開発などに加えて、SoC/FPGA関連の設計ツールが例年より多く展示されていたように感じた。同社は、Eclips環境下で動作するUML設計ツール、EDGEの新バージョンを発表すると共に、Nucleus RTOSとEDGEによるMIPS社の新しいマルチスレッド対応コア、MIPS32 34Kのサポートを発表していた([ESC速報15])。

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Mentor Graphicsのブース

同社のブースには、昨年までトロン協会によるiTRON/T-Engineの紹介コーナーがあったのだが、今年は見当たらなかった。同社はこれまで組込み関連製品を供給する事業部に、以前に買収した「アクセラレイテッド・テクノロジー」の名前を付けていたが、どうやらこの名前は消えたようで、日本法人でも「組込みシステム事業部」という名前に変更されたようだ。

昨年に比較してブースの規模を拡大した感じがした出展社のひとつが、Expresslogic社だった。同社はRTOS、ThreadXが搭載されたデバイスが3億の大台を超えたことや、機能強化したThreadXの新バージョン、V5を発表していたが、同社のブースには連日、大勢の人が詰め掛けていた。これは、同社のブースで比較的おおがかりなマジック・ショーが行われていたためのようだった。同社は展示会場の入り口にThreadXのロゴが入った豪華リムジンを停車させるというイメージ作戦も行うなど、連日、派手な演出を繰り広げていた。

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Express Logic社のブース

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マジック・ショーの様子

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ThreadXマークのリムジン

新しい業界用語「ESL」とシステム・シミュレータ

前述の「DSO」と同じように、今年のESC SVで良く耳にした言葉が「ESL」であった。 ESLとは、Electrical System Levelの頭文字をとった言葉のようだが、小生のような浅学の者からすれば、いきなり「ESL」と言われても、何を意味するのか少し想像しにくい(ちなみに検索エンジンでESLを調べると、まず、English as Second Languageが出てくる)。せめて、Electrical System Level Design「ESLD」としてもらうと少しわかりやすくなるだが、これまでのRTL(Register Transfer Level)と対比させる必要もあってESLになったのであろう。RTLよりも抽象度の高い言語でソフトウェアを含むシステム全体を記述してシミュレーションを行い、バーチャルなプロトタイプまたはハードウェアを実現するツールなどは、ESL Design Toolと呼んでも良いのであろう。 ESC SVの期間中にFPGAの2大メーカーであるXilinxとAlteraからこのESLに関連した発表があった。まず、Xilinxからは、先に買収したAccelchip社のMATLAB MファイルからRTLに変換できるツール、AccelDSP Synthesis の新バージョン、8.1が発表された(EIS [ESC速報6])。同社は3月にESLツールのベンダを集めた「ESLイニシアティブ」という組織の結成も発表している。ライバルのアルテラ社はソフトコア・プロセッサ、Nios II用に記述されたCプログラムを分析し、性能を低下させるルーチンのみをハードウェアに変換する、「Nios II C2H コンパイラ」を発表し(EIS[ESC速報2])ブースでデモを行っていた。 組込みシステムの大規模化、複雑化は、システム・レベルのシミュレータやモデル生成ツールを提供するESLデザイン・ツール・ベンダを元気にしているようだった。

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拡張されたVast Systems社のブース

まず、システム・レベル・シミュレータ、モデル生成ツールなどで日本市場でも高い販売実績を誇るVast Systems Technology社が、昨年に比較してブース・サイズを数倍に拡張して出展していた。昨年初めにCEOを始めと新しい経営陣を迎えた同社は、最近の業績も好調のようだ。ESCの会期前に同社は、ARM1136、ARM1156、ARM1176のARM11コアのバーチャル・プロセッサ・モデルを発表、今後もDSPを含むプロセッサ・モデルの充実に努めていく方針とのことであった。

システム・シミュレータおよびモデル生成ツールのベンチャー企業、Virtutech社は、マルチコア・プロセッサへの対応を発表し、Freescale社のMPC8641Dをサポートすると発表した。この他、Carbon Design Systems、CriticalBlue、Celoxcica、CoWareなどのESLツールを提供する各社もESCに出展して、組込みシステム、SoCの開発期間を短縮する自社製品の利点と特長を売り込んでいた。従来からあるUMLベースのシステム・デザイン・ツールもESLデザイン・ツールと呼ぶかどうかは知らないが、小生の目に留まったのが UMLベースのモデリング・ツールのベンダ、I-Logixのブース。

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Virtutech社のデモ

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I-LOGIX社にあったサインボード

同社はこの展示会の直前にやはりUMLベースのソフトウェア・デザイン・ツール、TAUを供給しているTelelogic社に買収された。I-Logixのブースには、写真のようなパネルが掲示されていた。

リポータ:EIS編集部 中村正規

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