イベント・リポート NO-10
ESEC2004 リポート
7/7-7/9 at 有明東京ビッグサイト

リポータ : EIS編集部 中村

今年も7月7日から9日まで有明東京ビッグサイトで開催されたESEC(組込みシステム開発技術展)を取材する機会に恵まれた。この時期に開催される展示会は雨が心配なのだが、3日間共に晴れ。むしろ連日の暑さの影響を心配した人もいたかもしれないが、心配ご無用。会場には初日から大勢の人が訪れ、主催者発表によれば、3日間で19,300人を超える入場者を記録したようだ。これは、最近のディジタル家電ブーム、経済産業省が日本の組込みシステム開発技術の競争力強化に本格的に動き出したことなどから、組込みシステム開発に対する関心が高まっている証しであろう。会場に行けなかった人のために、目に留まった出展者や製品を紹介する。
なお、ESEC2004については、「門田浩のユビキタス・ウォッチ」でも取り上げられているので、ぜひこちらも参照して欲しい。

ESECのお約束といえばYDCとガイオのブース

私にとっての「ESECのお約束」は、会場に入ってすぐに目に入る横河ディジタル・コンピュータ(YDC)とガイオ・テクノロジーの両社の大きなブースなのだが、このお約束は今年も守られていた。まず、例年通り、巨大なブースを構えた横河ディジタル・コンピュータでは、プレゼンテーションと各製品/サービスの展示スペースに多くの人が集まっていた。

 

特に混雑が目立った横河ディジタル・コンピュータのブース

一方、ガイオ・テクノロジー社の今年のブースは、展示スペースを縮小し、ミーティング/商談スペースを主体にしたユニークな構成していた。その詳細は、「門田浩のユビキタス・ウォッチ」でリポートされている。

横河ディジタル・コンピュータの隣にICE製品ではライバル企業である、ソフィア・システムズがいたのには少しビックリした。恐らくESECには初登場と思われるソフィア・システムズのブースでは、ブースの内側の仕切られたクローズなスペースで数多くのオン・サイト・セミナが行われていた。

 

ESEC初登場(?)のソフィア・システムズ

ZIPCのCATSがLSIオブ・ザ・イヤーを受賞

CASEツール、ZIPCでお馴染みのキャッツ社のブースも混雑していた。同社は、この会期中に発表されたLSIオブ・ザ・イヤーの設計環境/開発ツール部門において、UMLから構造図エディタを介してSystemCへのリンクを実現する製品、「Xmodelink SoC Moleler」でグランプリを受賞した。

 

キャッツ社のブースとLSIオブ・ザ・イヤーの授賞式で喜びを語る渡辺副社長

注目の新規出展社、Stretch

今年のESECにも多くの新規出展企業が現れたが、私が注目したのはソフトウェア・コンフィギュラブル・プロセッサのストレッチ社である。同社はSilicon Spice社出身のGary Banta氏が設立したベンチャー企業で、最近になってTensilicaのコンフィギュラブル・プロセッサ・コア、XtensaにFPGAのブロックが接続されたソフトウェア・コンフィギュラブル・プロセッサ、S5000ファミリを発表している。ストレッチ社は7月になってから日本法人の開設を発表して本格的に日本市場に参入してきたが、今回のESECへの出展はその口火を切る形となった。同社のS5000ファミリのデザインは、C/C++のソース・コードからプロセッサのソフトウェアとFPGA領域へのマッピング/コンフィギュレーションが簡単に行えるのが特長。同社のブースには、米国法人の幹部も来日し、この最初の製品で、通信、ネットワークの用途をターゲットにしたS5610プロセッサのデモを行っていた。同社の製品は、QuickSilver、アイピーフレックス、NECエレクトロニクスなどから提供されているダイナミック・コンフィギュラブル・プロセッサや、ASIC内にFPGAを埋め込んだLeopard LogicやeASICの製品と競合することになるだろう。

 

ストレッチ社の展示パネルとデモ風景

H.264は?

昨年秋のET2003では、最新の画像圧縮アルゴリズム、H.264に関する展示が注目されたが、ESEC2004でもH.264関連の展示が目に止まった。そのひとつが、ロイノス社のデモとプレゼンテーションであった。同社はJTAGエミュレータやDSPボードなどの製品を提供しているが、昨年から他社に先駆けてH.264に準拠したリアルタイム・エンコーダをボード・レベルで提供しており、ESECの会場でも注目を集めていた。

 

ロイノスのH.264リアルタイム・エンコーダ

一方、昨年のET2004では、MPEG-4の解析ツールを展示したニコン・システム社が,今回は新たに開発したH.264解析ツールを展示していた。
H.264については、今後も各社から多様なソリューションが提案されることになるだろう。

セイコーエプソンの無接点電力伝送モジュール

私は、展示会には報道関係者として入場するのだが、毎回困るのは、仕事熱心なキャンペーン・ガール達だ。彼女達が、一般来場者だけでなく、顧客になろうはずもないPRESSバッジをつけた私達、報道関係者にまで、無差別にアンケートの記入を依頼してくるのには閉口する。一方、これとは対象的にPRESSバッジをつけた報道関係者だとわかると、積極的に話しかけてくる女性達に遭遇することもある。このような女性達は、大抵、出展者の広報担当者かその会社と契約しているPR会社の社員だ。今回のESECでも、セイコーエプソンのブースで、それらしき女性に呼び止められた。彼女が小生に熱心に説明を始めたのは、昨年のETでも同社が参考出展していた無接点電力伝送モジュールだった。説明によれば、今回のESECに出展された製品は、昨年のETでデモした製品に個別認識機能を付加し、応用範囲を拡大したもの。電源仕様の異なる携帯機器機器が複数あった場合でも、対象とすべき相手を確実に認識して充電動作が行えるようになった。また、この機能を利用すれば、特定の携帯機器だけを指定して電力伝送を行うこともできる。同社のブースでは、この個別認識機能を示すデモを世界地図上にいる動物のキャラクタを使用して行っていた。この送受信モジュールが各携帯機器に組み込まれるようになれば、充電器がない場合でも携帯機器どうしでの充電動作が可能になるが、このモジュール製品、発売時期などはまだ未定のようだ。

 

セイコーエプソンの無接点電力伝送モジュールに付加された個別認識機能を示すデモンストレーション

T-エンジン関連

T−エンジンについては、坂村健教授による基調講演が初日にあり、関連する製品展示も数多くあったが、私の目に留まったのは、日立超LSIシステムズ社のブースに参考展示されていたT-エンジン用RFタグ・リーダ開発キットだ。
この開発キットを利用して、日立製のミューチップと標準のT―エンジン・ボードをベースにしたRFタグの端末装置の開発が簡単に行えるように、タグのリーダと関連するミドルウェア、ソフトウェアの開発環境が一括して提供されるようになるらしい。販売開始時期は聞き漏らしたが、恐らく秋のET2004までには正式発売されることになるだろう。
また、NECエレクトロニクスのブースを訪問したときに、プレゼンテーションのエリアに大勢の人が集まっていたので、何の講演か?と足を止めてみると、「門田浩のユビキタス・ウォッチ」第4回のUCサロンに登場した根木さんが、「T-Cube(通称)」コンピュータを手にして名調子のプレゼンテーションの真っ最中。この方、T−エンジンの普及に大いに貢献している。

 

日立超LSIのTエンジン用RFタグ開発キット

 

NECEL、根木さんの熱の入ったプレゼン

印象に残ったその他の展示と製品

その他、私の印象に残った展示や製品を並べてみる。
依然として好調な数字を維持している「自動車」をターゲットにしたハードウェアやソフトウェア・ツールの展示は、数年前に比較して大幅に増大した感がある。NECエレクトロニクスのブースでは、ちょっと大きめの自動車の模型を置いて、NECエレクトロニクスがオートモティブ・アプリケーションに提供できる半導体ソリューションを見せていた。ディジタル家電とは異なり、比較的長い製品サイクルが維持されるクルマは、各半導体ベンダにとって、今後、ますます重要な組込みアプリケーションになっているようだ。

 

NECエレクトロニクスのオートモティブ・
ソリューションを示す展示

オートモティブ・エレクロニクス用MCU/MPUで世界をリードしてきた半導体メーカー、といえば、モトローラの名前がまず浮かぶ。ご承知のように、モトローラの半導体部門は、今年、正式に分社してFreescale Semiconductor社となった。同社は、この展示会に系列会社のメトロワークスと合同で写真のようなブースを構えていた。昨年誕生したルネサスの場合と同じように、今後、Freescale Semiconductor社は、その新しいブランドの普及のために積極的な広報活動を行うことになるだろう。同社は、今後大きな市場の形成が期待されているUWB用のチップ・セットやiMXアプリケーション・プロセッサを中心にした展示を行っていた。

 

MterowerksとFreescale Semiconductor

これまで、海外のミドルウェア製品を中心に販売してきたエーアイ・コーポレーションが、ソフトウェアのテスト・ツール、品質改善用ツールなど、取り扱い製品を拡大して意欲的な展示をしていたのが目に留まった。

 

エーアイ・コーポレーションのブース

組込みLinux関係で目立ったのは、やはりMontaVista社。同社のブースで注目したのは、業界標準のElipseをベースにした統合開発環境、MontaVista DevRocketだった。これは、同社が昨年末に発表したもので、複数の開発プラットフォーにおいてElipseベースの共通した「ルック&フィール」を提供することによって、MontaVista Linuxを中心にとした組み込みソフトウェア開発の生産性を向上させ、開発期間の短縮を実現することが期待されている。

 
 

モンタビスタのブースとDevRocketの展示パネル

「Emdedded紳士録」に登場した人々

ESECは、日本における組込み技術者の祭典でもある。当サイトの人気コンテンツであるEmbedded紳士録に登場した組込み業界の重要人物のほとんどは、この会場にいたに違いない。私も、多くの「紳士」達と会場で挨拶を交わした。
ESECには主要なFPGAベンダが出展していないが、アルテラのFPGA、StratixやCycloneデバイスを搭載したUSB2.0対応のボードを展示していたベンダがいた。
この会社はEISのEmbedded紳士録にも登場したことがある、長野のプライム・システムズ。同社は、去る6月に発表したばかりのCycloneデバイス搭載のボード、CX-Card(写真)の高速動作をデモンストレーションしていた。ブースには、上記のEISの紳士録に登場した内田、三橋のご両人も顔を見せていた。

 

プライム・システムズのCX-Card

EISのEmbedded紳士録といえば、7月に登場した竹下社長のタンバック社も出展していたし、6月に登場した高橋真人さんダイナミック・ソリューションズ社も主力のVience−MPBボードを展示していた。

 

ダイナミック・ソリューションのVience−MPBボードの展示

2日目の夜に開催されたEMBLEM/TOPEERS/SESSAME合同の交流会でも、大勢の紳士達にお会いし、楽しい時間を過ごさせて頂きました。
幹事を務めて頂いた皆さんに感謝。感謝

 

バックナンバー

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>> EDSF2004, 第11回FPGA/PLDコンファレンス

>> Semicon Japan 2003