イベント・リポート NO-23
Embedded System Conference Silicon Valley 2007 <NO−1>
リポータ: EIS編集部 中村正規

組込みシステム技術関連のイベントとしては米国最大のEmbedded System Conference Silicon Valley(以下、ESC SVと表記)が、去る4月1日から5日まで(展示会は4月3日から3日間)、サンノゼ市のMcenery Convention Centerを中心にした会場で開催された。今年のESC SVの様子を例によって個人的な視点から、以下に報告する。

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展示会初日の会場入口風景


今年のESC SVはESC WESTの時代を含め、通算で19回目の開催であり、会場をサンフランシスコからサンノゼに戻してからは2回目の開催となった。それにしても、日本から参加する者にとって、サンノゼで開催されるイベントは、サンフランシコと比較すると交通の便も去ることながら、滞在するホテルや食事をとるレンスランに制限が多く、あまり歓迎すべき点はない。会場に隣接するホテルの料金は軒並み200ドル近くで、小生は今年も会場から徒歩20分くらいのあまり綺麗ともいえないモーテル(それでも1泊、100ドルちょっと)に滞在しての取材となった。
今年のESC SVには、新規出展企業約40社を含む330社が展示会に参加、カンファレンスも昨年を大幅に上回る、約180ものプログラムが提供された。会期初日のチュートリアルは日曜日の開催にもかかわらず、会場は熱心な受講者でほぼ満席になっていたのには驚かされた。
イベント全体の来場者数は主催者発表で1万1千人と、昨年を10%程度上回った模様である。確かに、連日雨にたたられた昨年と比較すれば、今年は天候にも恵まれて会場周辺には活気があったようにも感じたが、展示会場が混雑していたのは初日の午後だけで、2日目、3日目の展示会の入場者数は日本のET展などに比較すれば、かなり寂しい感じがした。しかし、今年のESC SVでは、主催者が会期初日の基調講演をはじめ、さまざまな併設イベントの演出に力を入れていたのが感じとられ、その点では大いに感心させられた。

基調講演は、あのゴア前副大統領

展示会初日の4月3日に行われた基調講演に実施された基調講演に招かれたのは、このところ「地球温暖化対策」の重要性、緊急性を国内外で熱心に唱えている、アル・ゴア前米国副大統領であった。ESCのような、比較的な地味な技術者向けのイベントにゴア前副大統領のような有名人が登場したことは画期的なことであり、会場にはこれまでにない2千人を超える多くの聴衆が集まっていた。ゴア前副大統領は、地球環境保護問題には、緊急、かつ長期的な視点での対策が必要であることを訴え、特に「ファイン・グレイン」での取り組みが重要であると力説していた。すなわち、今後の温暖化対策には個別の電子機器における省電力対策が重要で、組込みシステム技術者は個々の組込み機器の低消費電力化に挑戦すべきだと訴えていた。また、同氏は、現在の地球温暖化現象は「Crisis」(クライシス)であるが、「Crisis」は日本語で「Danger」(危)と「Opportunity」(機)という2つ漢字で表現され、「「Crisis」は新たなビジネスを生み出すチャンスでもあると述べていたのが印象に残った。ゴア氏は、登壇直後になにやら冗談を連発していたのだが、小生の英語力ではさっぱり理解できなかったのは悔しい限りであった。残念なことに、この基調講演はプレス関係者を含めて、写真撮影が全面禁止だったため、ゴア氏の講演の様子お見せすることはできない。もし、この基調講演の様子を写真でレポートしているメディアがあったとしたら、それは明らかに「マナー違反」である。
最近のアメリカからの情報によれば、このゴア氏、出馬しないと言明している次期大統領選挙の民主党候補として、再び急浮上するとの憶測も出ている。

組込みプロセッサ30周年のIntelとOrange Country Choppers

やはり、展示会初日に実施された「Industry Address」というイベントには、プラチナ・スポンサーである、Intelのダグラス・デービス副社長が登壇した。Intelは、業界初のマイクロコントローラ、8748/8048でEmbedded Computingの世界に参入してから、30周年を迎えたとのこと。我々からすれば、Intelの最初のマイコンは、8748/8048ではなく、4004か8008では?という疑問も沸くが、4004や8008は電卓用であって、純粋な組込み用プロセッサとは呼べないというのがIntelの解釈なのであろう。
デービス副社長は、これまでの同社のEmbedded Computingへの取り組みの歴史と共に、このイベントに合わせて発表したクワッド・コアの組込み用プロセッサ、 Xeon® 5300シリーズなどを紹介した。聴衆を沸かせたのは、デービス副社長の紹介で、「Orange Country Choppers」の個性豊かな親子3人組が写真のような大型バイクで会場を揺るがす爆音と共に現れたときであった。「Orange Country Choppers」とは、日本でもケーブルTVなどで視聴できる「ディスカバリー・チャネル」に登場する、ニューヨークの手作りバイク工房である。爆音と共に登場した大型バイクには、インテルのマルチ・コア・プロセッサによる指紋認証、イグニッション制御、GPS、各種メータ表示などを含む多様な機能が搭載されているらしい。このバイクは展示会の期間中、インテルのブースに展示され、来場者に無料の記念写真を提供するサービスも行われていた。スマートなハイテク企業の代表ともいうべきIntelと、こだわりの手作り職人ともいうべき「Orange Country Choppers」との提携とは、ちょっと我々の意表を突く組み合わせでもあった。このバイクがステージから退出しようとしたとき、どうもエンジンが自動では起動せず、手動で起動したように見えたのは、ご愛嬌か。

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Orange Country Choppersの登場シーンと搭載されている専用コンピュータ

人気を集めた「トヨタ、プリウス」の分解ショーなどの併設イベント

今年のESC SVで初めて実施され、人気を集めていたのが「Prius Teardown」と呼ばれるトヨタの最新鋭ハイブリッド車、プリウスの分解ショーであった。このイベントの会場には、分解されたプリウスの車体が展示され、連日午前と午後の2回にわたって、プリウスに内蔵されているユーザー・インタフェース/ダッシュ・ボード・モジュール、エアーバッグ・モジュール、エンジン・コントロール・モジュールなど、6種類ほどのモジュールの内部構成と機能を解説する講演が実施されていた。
このショーでは、この他にも内部にMicrochip Technology社のMCUが多数、組み込まれている「垂直立ち乗り型スクータ」、Segwayの分解も実施されたようだ。
今年のESC SVでは、ETで実施されている「ETフェスタ」のようなイベントの他、カジノ・ゲーム大会、来場者がランチ・タイムに自由なテーマで意見交換する「Peer Roundtable」、高信頼性ソフトウェアなど特定のテーマについて早朝から議論する「Shop Talk」など、多くの新しいイベントも開催された。こうした新しい併設イベントを年々、創設、演出する主催者の努力には大いに感心させられた。

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「Prius Teardown」の会場の様子と、展示されていた分解後の車体

展示会場で目立った出展社は?

今年のESC SVに最大規模のブースで出展していたのは、INTEL、Microsoft、Green Hills Software、Wind River、Mentor Graphics、Express Logic、Microchip Technologyなどの各社で、それぞれ工夫をこらした展示やデモなどで来場者を呼び込んでいた。この他、 Atmel、LYNUXWORKS、Xilinx、Alteraなどの各社も大きなブースで出展していた。
昨年、非常に目だった存在だったWind Riverを中心としたDSOパビリオンは今年姿を消し、Wind RiverのブースからもDSOの大きなサインを発見することができなかったのは、予想外であった。Wind Riverの今年のブースはアプリケーションごとの開発ソリューションを示す、比較的、派手なものになっていた。ちょっと驚いたのはGreen Hills Softwareのブースで、同社のブースで行われるプレゼンテーションを聴講すると、何と抽選でトヨタのプリウスが当たるという、大胆なプロモーションが行われていた。また、Express Logicではここ数年恒例となったマジックショーが今年も実施され、大勢の観客を集めていた。

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トヨタ・プリウスを景品にした         Wind River社のブース
Green Hillsのブース


この他、新たに登場した特設ブースとしては、Power PCアーキテクチャの普及活動を行っているPower.orgのパビリオンや、Zigbee Allianceのパビリオンなどが目立つ存在であった。

プロセッサ・ベンダの中で元気だったのはATMELとMicrochipの両社だったかもしれない。ATMEL社は、このイベントに合わせて新しい低消費電力の32ビットフラッシュマイクロコントローラ、AVR32 UC3Aを発表した。このMCUは、512KBフラッシュメモリ、10/100 Ethernet MAC、12MbpsのUSB 2.0 On-The-Go対応機能、SRAM/SDRAM外部バスインタフェースを搭載している。
一方、Microchip 社は、16〜64KバイトのFlash、最大8KバイトまでのRAMを内蔵した28および44ピン・パッケージの16ビットMCU、C24F を発表した。Microchip社のブースでは、MCU以外の幅広いASSP製品も展示されていたのが印象に残った。
日本でも人気のあるPICマイコンを提供しているMicrochip社だが、ETのような日本の展示会にも参加して、その幅広い製品群を見せて欲しいものである。

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Atmelが発表したAVR32 UC3のデモ    Microchip社のブース

日本からの出展企業は?

日本陣営では、ルネサス・テクノロジと富士通の両社が車載用や通信用のMCUを含む幅広い半導体製品を展示していたが、昨年まであった東芝やシャープなどの姿は見えなかった。
ルネサスは、会期中にドイツのZMD社と提携して900MHz帯Zigbeeのチップセットを開発し、将来的にはRF回路内蔵のMCUの開発も計画していることを発表した
その他の日本企業では、日立製作所が組込みデータベースを、PFUが最新の組込み用ボード・コンピュータを展示、ハギワラ・シスコム、岡谷エレクトロニクス、フラッシュ・サポート・グループ、ブライセン、ソフィア・システムズ、アドバネットなどの各社が意欲的に出展していた。

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左から、ブライセン、ルネサス テクノロジ、ソフィア・システムズのブース


一方、台湾企業の出展規模は年々拡大している傾向にあり、その存在感を増しているように感じられた。Intel互換プロセッサや組込み用ボード・コンピュータを提供するVIA Technologiesをはじめ、ProtechやKontronなどのボード・コンピュータ・ベンダーから、ASIX Electronicsや5V Technologies社のような新興のファブレス半導体メーカーまで数多く出展しており、台湾企業による米国市場への積極的な進出意欲がこの展示会からも強く感じられた。

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Chip Setからボード製品まで、トータルなソリューションを展示したVIA Technologies

組込みシステムでの重要性が高まるFPGA

ちょっと前まで、FPGAはロジックの集積手段にすぎなかったが、現在では組込みシステムの中核をなす重要なデバイスになっている。最近の高集積FPGAには複数のプロセッサと周辺回路も容易に内蔵できるようになっている。このイベントでも、Xilinx、Altera、Actel、Lattice Semiconductorの主要FPGAベンダの4社が揃って出展していた。
まずXilinxは、同社の低価格FPGA、Spartan-3ファミリにDSP機能に特化したSpartan- 3A DSPを新たに加えたことを発表し、同社のブースでその開発ボードを展示、デモしていた。一方、ライバルのAltera社は同社にソフト・プロセッサ・コア、NIOS IIが欧州で業界標準になっているOSEK/VDX 仕様に準拠したInformatik の社の車載用RTOS、osCANでサポートされ、車載用FPGAに新しい道を切り開いたことを発表していた。
また、アクテル社は3月に発表した、ARM社のFPGA用に最適化したプロセッサ・コア、Cotex-M1を搭載できるFPGAの新製品をプロモーションしていた。
なお、ARM社のブースでは、このCotex-M1をActel社以外にライセンスすることを狙っているのか、予想以上の展示スペースを割いてこのコアをプロモーションしていた。

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XilinxのSpartan-3A DSP     NioS IIをpushしたAltera社    ARM社のCotex-M1
の開発ボード            のブース               展示パネル

NO−2に続く

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