イベント・リポート NO-24
Embedded System Conference Silicon Valley 2007 <NO−2>
リポータ: EIS編集部 中村正規

今年のキーワードもやっぱり「マルチ・コア」

さて、今年のESC SVの技術的なキーワードは何であったろうか?もはや、組込みLinuxはすでに業界に定着したし、Eclips開発環境もすっかり常識化してしまった感がある。
昨年のESC SVで目立った新しい言葉として、DSOやESLを挙げた記憶があるが、今年は特に印象に残るような新しい単語やキャッチフレーズはなかったように気がする。結局、今年のキーワードのひとつは昨年に続いて「マルチ・コア」だったかもしれない。シリコン・バレーではESC の前週に「MultiCore Expo」というイベントが開催されていたが、ESCの会期中にはIntelから前述の組込み用クワッド・コア・プロセッサが発表された他、QNX Software、Wind River、Co-Wareなどの各社からもマルチ・コア・プロセッサに対応した新しいOS、デバッグ・ツール、開発環境の新バージョンが相次いで発表された。

まず、マルチ・コア対応のOSでは業界をリードするカナダのQNX Software社は、ESC SVで新しいマルチ・コア対応のOS分割ソリューション、Secure Partitioning for Multi-Core Processorsを発表した。このソリューションは、信頼性が不明なアプリケーションや外部からの攻撃からシステムを保護しながら、一連のアプリケーションを固定パーティションに限定、またはアダプティブ パーティションによってCPU の負荷を最適化できるとのこと。同社は各機能の優先度に応じて、この二つのテクニックを同時に一つのマルチ・コア・システムの中で使用可能であると、説明していた。会期中、QNX社の広報を担当しているPR会社が主催したパーティに参加させてもらい、帰りに写真のようなケーキをおみやげに頂戴した。随分と手の混んだプロモーション・グッズだと感心し、とても食べてしまうことはできずに、大事に日本に持ち帰ってきた。

一方、Wind River社は、マルチ・コアのサポートを拡充したWind River Workbenchの新バージョンを発表した。新しい、Wind River Workbench 2.6.1 On-Chip Debugging Editionでは、Broadcom社のBCM1125やインテル/マーベル社のXScale IOP 342、フリースケール社のMPC8641Dなどのマルチ・コア・プロセッサがサポートされた。同社は、ARM社のCotex-M3など、さらに幅広いデバイスに対するサポートを計画中とのことであった。
ESLツール・ベンダの、CoWareはマルチコア・ベースの設計に対応したシステム設計・シミュレーション・ツール、Virtual Platformの新バージョンを発表した。
以上のように今年もマルチ・コア・プロセッサ、およびそれらにに対するサポート・ツールの発表が相次いだが、現在のマルチ・コア・プロセッサをベースにした組込みシステム開発、特に対称形マルチ・プロセッシング(SMP)をベースにしたソフトウェア開発を容易にするような画期的なデバイス、開発ツール、設計手法などに関する発表はなく、多少期待外れの感も否めなかった。

また、昨年と同様に、複雑化、大規模化する組込みシステムの開発を容易にするモデリング・ツールやシステム・シミュレータに対する来場者の関心は高く、これらのツールを提供しているTelelogic、Virtutech、Vast Systems、CoWare社などのブースでのデモやプレゼンテーションが多くの聴衆を集めていた。また、ソフトウェアの静的テスト・ツールなどを提供しているLDRA、Coverity、S2 Technologiesなどのブース、JAVAのバーチャル・マシンを提供するベンダ、のブースも来場者の人気を集めていた。

組込みシステム開発での重要性が増す計測器

最近顕著になってきた組込みシステムの高速化、特にGbps単位の高速シリアル・インタフェースを装備したシステムの動作検証には、高速のオシロスコープやアナライザが不可欠な存在になってきた。各計測機器ベンダも、世界的な組込み技術関連の展示会には必ず出展する共に、組込みシステムの開発やデバッグに最適化された機能を搭載した製品を提供するようになった。今年のESC SVにも、Agilent Technologies、Tektronics、LeCroyなどの主要ベンダが揃って出展し、最新の機器を発表、展示していた。このうち、Tektronicsは、このイベントに合わせてリアルタイム・オシロスコープ、ロジック・アナライザと波形検索エンジンの3つの機能を搭載した、組込みシステムの設計、デバッグに最適な計測器、MSO4000シリーズを発表した。ライバルのLeCroy社も期間中に組込みシステムの検証、デバッグの用途をターゲットにしたミックス・シグナル・オシロスコープ用の新製品、MS500を発表していた。このMS500は2GHzまでのアナログ信号、500MHzまでのディジタル信号に対応し、I2C、SPI、 CAN、LIN、RS232などの信号のトリガ、デコード機能をサポートしている。MS500は、同社のディジタル・オシロスコープ、WaveRunner Xi および WaveSurfer Xsシリーズに接続して使用する。

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TEKTRONICSのMSO 5000(右側)のデモ    LeCroyの展示ブース

終わりに

以上、とりとめもなく、今年のESC SVの感想を述べたが、今年のハイライトは、やはり、ゴア前副大統領の基調講演だったかもしれない。
ここ数年、日本の組込み業界における、「開発期間の短縮」、「ソフトウェアの品質向上」という課題は米国にも共通しており、今年のESC SVにおいてもこれらを解決するための製品が数多く、発表、展示されていた。ただし、今年、プレスルームで大きな注目を集めるような画期的な技術や製品の発表はなかったように思われる。こうして見ると、組込みシステムの業界は世間の注目を集めてはいるものの、技術革新という点では少し足踏みをしているのかもしれない。
ESC SVには年々、日本から来場者が減少しているようにも感じるが、このイベントが今後も業界で重要な地位を維持することは間違いない。今年のESC SVにも、業界に影響力のある企業がほとんど揃って出展していたし、展示会の開催前からスタートしたカンファレンスには充実したプログラムが提供され、初日から熱心な技術者が数多く参加していた。一方で、情報家電や携帯端末を中心にした組込みシステムの開発拠点が日本を中心にしたアジア地域であることは紛れもない事実であり、ESCの主催者であるCMPはこのイベントを中国、台湾、インドなどの都市でも開催するようになった。今後、日本で開催される、ET展のような組込み関連の展示会も海外の技術者やメディアからも注目を集めるような、国際的なイベントに育てる必要性を強く感じて会場を後にした。

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