イベント・リポート NO-18
Altera PLD World 2005 東京 10月21日 東京国際フォーラム
リポータ : EIS編集部 中村

会場内でのプレゼンテーション

日本のPLD/FPGA市場でトップシェアの地位を維持しているアルテラ社が恒例のプライベート・ショー、「PLD WORLD 2005」を開催した。東京の会場は、これまでと同じ有楽町の東京国際フォーラム。日本のFPGA市場でトップシェアを誇るアルテラだけに今年のイベントにも多くの技術者が来場していた。

ゲスト講演に西和彦氏が登場

当日のプログラムは、同社のPLD WORLD専用サイトで確認できるが、今年の基調講演には同社のマーケティング担当上級副社長のJordan S. Plofsky氏が、ゲスト講演には前日経エレクトロニクス編集長の浅見直樹氏と尚美学園大学教授の西和彦氏が登場した。生憎、どの講演も聴講することはできなかったが、アルテラのイベントのゲスト・スピーカーとして元アスキーの西和彦氏が登場したのは、多くの人にとって少々意外だったかもしれない。同氏の講演タイトルは「オープン・ソース・ハードウェア」というもの。実は、西和彦氏とFPGAの関係は深い。話は同氏がアスキーの社長を務めていた時代に遡るが、アスキーは90年代初頭にクロスポイント・ソリューションズという、ファイン・グレイン構造のアンチ・ヒューズFPGAを開発していたアメリカのベンチャー企業に多額の出資を行い、日本の日立製作所(現、ルネサステクノロジ)をファブにして、FPGA市場に打って出る計画を立てた。残念ながら、この計画はさまざまな理由で破綻してしまったが、西氏はその当時からFPGAの将来性を予見すると共に、FPGAビジネスの特異性を体験した一人だ。西氏がゲスト・スピーカーに登場したもうひとつ理由として考えられるのが、「MSXパソコン」の復刻ブームかもしれない。ご承知のように、8ビットの家庭用パソコン、MSXを80年代半ばに提唱したのは、西氏のアスキーとマイクロソフトであった。昨年のAltera PLD WorldではMSXのハードウェア機能をアルテラのCycloneデバイス、1個で実現した「1チップMSX」が発表され、注目を集めていた。その後、アスキーは「MSX永久保存版」なる雑誌を刊行し、秋葉原でMSX WORLDというイベントまで開催した。あの有名な大型掲示版でもMSXネタは今でも盛り上がっているようだ。

新製品、Stratix II GX とQuartus II version 5.1

記者会見場に掲げられたStratix II GXのパネル 

昨年のPLD WORLD 2004では、アルテラが90nmプロセスを使用して開発した新製品、Stratix、Cyclone、MAX、HardCopyファミリの「IIシリーズ」が揃い、注目商品が目白押しの感があったが、今年は後述の高速シリアル・シリアル・インタフェース内蔵のStratix II GXのみがこのイベントにほぼ合わせた形で記者発表された(発表資料はこちら)。
アルテラにとって、今年は昨年発表した「IIシリーズ」のデザイン・インを進める時期に当り、新たなアーキテクチャの新製品発表は来年以降になると思われる。

さて、今回発表されたStratix II GXだが、従来のStratix GXに比較してサポートされる最高データ・レートが約2倍の6.375Gbpsまで、集積度も従来約3倍に相当する最大130K LE数までに拡張されている。内蔵されるトランシーバのチャネル数は、最大で20チャネルまで。このイベントの前日の行われた記者発表におけるアルテラの説明によれば、Stratix II GXでサポートされるデータ・レートはもっとも多くのアプリケーションで使用され、かつデバイス・コストの最適化が可能になる622Mbpsから6.375Gbpsの範囲に設定され、あえてOC-192などのようなさらに高速の標準規格のサポートはコストや歩留まりなどを考慮して避けたとのことであった(ザイリンクスは、Virtex-4 FXで10.315Gbpsまでの転送レートをサポートすると発表している)。Stratix II GXに内蔵されている専用の高速トランシーバは、最大500%、3タップのプリエンファシス機能(送信側)と最大17db、4段のイコライザにより、シグナル・インティグリティの確保し、トータル・ジッタを低減する。アルテラが特に強調していたのは、Stratix II GXトランシーバの低消費電力特性であった。アルテラによれば、Stratix II GXのトランーバ当りの消費電力は、6.375Gbps動作時で225mWと、競合品であるザイリンクスのVirtex-4 FXと比較すると2分の1以下になると説明していた。 アルテラでは、このStratix II GXのデザインを同時に発表した開発ソフトウェア、Quartus IIの新バージョン、v.5.1でサポートすると共に、今後、評価ボードなども提供する予定である。デバイスの供給は、来年の第1四半期から開始される予定となっている。

アルテラは、Stratix II GXと同時に開発ツール、Quartus IIの最新版、バージョン5.1も発表した。(発表資料は、こちら) 今度の新バージョンでは、上記のStratix II GXがサポートされると共に、デバイスの消費電力を推定および自動的に最適化する、新しいPowerPlay機能が提供される。このPowerPlay機能を活用することで、バージョン5.0の場合よりも、ダイナミック消費電力を平均で20%、Stratix II デバイスにおいては最大60%まで削減できるとのことだ。また、新たに提供される「インクリメンタル・コンパイル・ボトムアップ・フロー」により、複数の設計者が個別の回路機能を独自に開発、最適化し、その後に全体のデザインへ簡単に統合できるようになる。また、この機能により、特定ブロックの性能を維持しながら他のブロックを最適化することが可能になると説明している。

アルテラによるプレゼンテーション

ALTERA PLD WORLDの会場内では、最新製品の解説、システム・コストの低減策、FPGAの消費電力対策、ジッタの分析と対策、HardCopy ストラクチャードASICの利点、ディジタル信号処理用デザイン・ツールなどに関するプレゼンテーションが行われていた。
このうち、小生が聴講したジッタの分析と対策に関するプレゼンは非常にわかりやすく、とても参考になった。これまでPLD/FPGAのベンダに在籍しているのは「ディジタル」の技術者ばかりで、Gbpsレートの高速シリアル通信が直面する「アナログ」領域の問題にも精通した技術者は少なかったように思うが、日本アルテラでは高速インタフェースで生じる諸問題にも対応できる技術者を増強しているとのことだ(日隈社長談)。
全般的には、自社のデバイスや開発環境に関するプレゼンテーションが多かったが、今年もオリンパスメデイカルシステム(株)など、ユーザによる設計事例の発表もあったのは感心した。

サード・パーティの展示

会場には、多数のサード・パーティ・ベンダと日本アルテラの販売代理店がブースを構えてアルテラ・デバイスに対する最新のサポート製品やサービスを来場に訴えていた。それらの中で目に留まった出展社や製品を紹介する。

1チップMSX

MSXアソシエーションのブース

まず、目に入ったのは、MSXアソシエーションが展示した「1チップMSX」。MSXのハードウェア機能を1個のFPGAで実現したもので、当初はこの製品をアスキーが販売を計画していたが中止になり、MSXアソシエーションが商社など特定の販路を通じて販売する予定だそうだ。

IP Lock

アルテラが認定したデザイン・コンサルタント・パートナ(ACAP)であり、JTAGポートからFPGAをコンフィギュレーションするモジュールなどを提供している(株)デザイン・ゲートウェイ社のブースでは、AES暗号を使用してデザイン・データを保護するためのIPが発表されていた。このIPは200ms周期でデザイン・データを暗号化、変更する機能を有しているとのことだった。

USBインタフェースのFPGAボード

長野のプライムシステムズ社は、Cyclone FPGAとUSBインタフェースを搭載した、組込み/試作開発用のボード、CX-Cardの拡張オプション・ボードとして開発した新製品、Data-Proを展示していた。このData-Proには144ピンのSO-DIMMソケットが搭載されており、512MBまでメモリを実装、制御できるため、CX-Cardと組み合わせることで、大量のデータを取り扱う用途への対応を可能にした。

 

デザイン・ゲートウェイの
IP Lockの展示ポスター

 

プライムシステムズのCX-CardとData-Pro

マルチ・ソフト・プロセッサ・コア対応のRTOSカーネル

TOPPERS-FDMPのパネル

iTRON仕様のRTOSをオープン・ソース化して提供する活動を行っているTOPPERS PROJECTの中心的なメンバーでもある(株)ワイデーケーのYDKテクノロジーズのブースでは、TOPPERS-FDMPカーネルのデモを行っていた。
このTOPPERS-FDMPカーネルは、アルテラのNios IIソフト・コア・プロセッサを複数個実装したシステムをサポートしたiTRON仕様のマルチ・プロセッサ対応のRTOSカーネルで、今年の春に発表されている。同社はこのマルチ・プロセッサ・コア対応のRTOSを含むシステム・デザインの受託を行うと共に、Nios 対応のEthernet MACのIP、IPv6対応のITRON TCP/IPプロトコルスタックなどの販売も行っている。

DSPベースのシステム・ボード

イスラエルを拠点したボード・ベンダ、GiDEL Ltdは、DSP、大容量のDRAM、複数の高集積FPGAを搭載したボードを展示していた。このボードは、DSPとFPGAの搭載数、DRAMの容量を拡張できるように設計されており、DSP(TI社のTMC320C6414)ベースにした組み込みシステムの試作開発やシステムLSIのエミュレーションを意識した製品のようだ。TIのDSPと高速乗算器を内蔵したStratixが同一ボード上に実装されているため、広範囲な信号処理アプリケーションに対応できると思われる。写真のPROCSuperStarには、Stratix 80が3個、搭載されており、最大21個までの実装が可能になっているため、かなり大規模なシステムにも対応できる。また、HWとSWの開発をシステム・レベルからサポートするツールも併せて提供している。同社の日本の代理店は立野電脳

GiDEL社のPROCSuperStar

 

新しい代理店

今回のALTERA PLD WORLDの出展者には新しい顔があった。先ごろ、日本での新たな代理店になった丸文と橘テクトロンの両社だ。アルテラは日本の販売代理店を変更せず、長い間、PALTEKとアルティマの二社に依存してきた。ライバルのザイリンクスが日本の代理店を何度か変更したり、追加してきたのとはある意味で対照的だった。ここにきて、日本アルテラが新たに販売代理店を2社追加した背景には、製品ラインとユーザの広がりだけでなく、ザイリンクスなど他のFPGAベンダの攻勢があったと考えられる。新たな代理店に加わった丸文は、以前、ザイリンクスの代理店だったこともあり、FPGAビジネスについての経験を持っている。一方の橘テクトロンは、アルティマと同じマクニカ傘下の企業であり、経営幹部にはかつてアルティマでアルテラ・ビジネスの中心的存在だった人もいる。同社は近く、社名をエスティナに変更することも発表している。

新しい代理店、丸文のブース

ET2005

今回のALTERA PLD WORLDに行けなかった方は、販売代理店のアルティマが日本アルテラと共に11月16日からパシフィコ横浜で開催されるEmbedded Technology(組込み総合技術展)に出展するので、そちら訪問すると良い。11月17日には、FPGA TRACKという無料の技術セミナーにおいて日本アルテラの橋詰英治氏による2つの講演も予定されている。

(終わり)

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