イベント・リポート NO-19
Digi Embedded Network Forum 2006
3月15日ホテルフランシオン青山

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ほぼ満席の会場の様子

「NET+ARM」の名称で、ARMコア・ベースのネットワーク・プロセッサを供給している、 NetSilicon社、 「うさぎ」マーク・ブランドの低コスト8ビット、プロセッサを提供している、Rabbit Semconductorなどを子会社に持ち、ネットワーク接続用モジュールやターミナル・サーバなどの幅広い製品群を供給しているDigi International社が、このほど、 「Digi Embedded Network Forum 2006」という半日のイベントを都内で開催した。
会場となったホテルフランシオン青山は、150名程は収容できる思われる部屋がほぼ満席という盛況であった。

今回のイベントには、Digi本社から、CTO(最高技術責任者)兼エンジニアリング担当副社長のジョエル・ヤング氏や、 CFO(最高財務責任者)を兼務するクリス・クリシュシナン上級副社長を初めとする同社幹部が来日し、日本市場に対する同社の関心の高さと 熱意を示した。
このイベントでは、最初にCFO(最高財務責任者)のクリス・クリシュシナン氏がDigi International社の概況を、 またCTO(最高技術責任者)兼エンジニアリング担当副社長のジョエル・ヤングが同社の製品戦略を説明した。

Digi International社とは?

同社は1985年、米国ミネソタ州に設立され、1989年にはNASDAQ市場への株式公開を果たしている。

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クリシュナン上級副社長兼CFO

実際のところ、日本の組込みシステムの業界で同社の名前が本格的に知られるようになった、2002年にARMコア・ベースのネットワーク用プロセッサを供給していたNet Silicon社を買収してからかもしれない。
同社は低コストの8ビット・プロセッサのベンダ、Rabbit Semiconductor社も2005年5月に買収している。
また、同社の傘下にはUSB関連のモジュール、ボックス製品を手掛けるInside Out Networks社もあり、 ネットワーク関連の製品を核にした組込みシステム市場への浸透を目指している。
発表されている資料によれば、 2005年9月終了の会計年度における年間売上げは約150Mドルなっている。

同社の製品群と戦略

上記のように、複数の子会社を保有する同社の製品群は多岐にわたるが、大別とすると、モジュール/ボックス製品と組込みシステム用製品の2つに分けられる。
このうちモジュール/ボックス製品は、古くからDigi社が手掛けてきたネットワーク用製品とInside Out Networks社のUSB関連製品で構成され、組込みシステム向け製品は、基本的にNet Silicon製品とRabbit Semiconductor製品で構成されている。 ただし、モジュール/ボックス製品の一部にもNet Siliconの組込みプロセッサが内蔵されている。

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製品戦略を語るヤング副社長兼CTO

製品戦略を説明したヤング副社長兼CTOによれば、同社はネットワーク機器を開発するユーザに対し、ボックスから、モジュール、ボード、チップ、 ソフトウェアまでをすべて提供する、「ワン・ストップ・ショッピング」の提供を狙っている。ARMコア・ベースのネットワーク・プロセッサに関しても、 デバイス単体だけでなく、有線およびワイヤレスの用途に対応したモジュールやボードなどを幅広く提供しており、NET+WORKSと呼ばれる アプリケーション・ソフトウェアなどを含む開発ツールも供給している。

ARMコ・アベースのネットワーク・プロセッサ

同社のARMコア・ベースのネットワーク・プロセッサ、「NET+ARM」は、ARM7(ARM7TDMI)およびARM9(ARM926EJ-S)にネットワーク機器で使用される 多様な周辺機能を1チップに集積している。ARM7コアをベースにしたプロセッサ、NS7520には、10/100MBpsのMAC、UART/SPI/HDLCに構成可能な シリアル・インタフェース、メモリ・コントローラ、DMAコントローラなどが集積されている。
また、ARM9をベースにしたNS9360とNS9750には、10/100MBpsのイーサネットMAC 、データおよび命令用キャッシュ、SDRAMコントローラ、LCD、USBなどを含む外部インタフェース、タイマ/カウンタなどさらに多くの周辺機能が付加されている。 (詳細はこちらを参照)
同社は、NS9360とNS9750の周辺機能をさらに拡張した新製品の開発を進めていることも明らかにした。この新製品にはA/Dコンバータや暗号化機能なども搭載される模様である。

NET+ARMの開発環境は?

Net Siliconの NET+ARMプロセッサの開発は、同社のNET+Works統合開発環境でサポートされている。この開発ツールのコンパイラとしては、Green HillsのMULTI、またはMicrocrossのGNUコンパイラのいずれかを選択できる。NET+Works開発環境で提供されるソフトウェア・ユーティリテイには、 TCP/IPのスタックおよびネットワーク・プロトコル・ソフトウェア、ドライバ、そしてExpress Logic社のRTOS、ThreadXなどが含まれており、 デバッグ用のJTAG ICEも付属している。同社は、開発環境のアップグレードにも努めており、これらには組込みLinux、WindowsCEへの対応も含まれているとのことであった。
なお、Linuxについては、サード・パーティからサポートとして、アットマークテクノ社から NS9750用Linux開発キットがすでに提供されている。

多様なモジュール製品群

Digi社は、NET+ARMプロセッサをベースにした多様なモジュール製品も提供している。 これら製品群は、NS7520を使用した有線および無線ネットワーク接続用モジュール製品であるConnectと、さらにNS7520/NS9360/NS9550をベースに 大容量のSDRAMやFlashメモリ、豊富な周辺機能などを搭載したボード製品、ConnectCoreによって構成されている。ユーザは用途によって、 ボードやモジュールを設計、製造することなく、これらの製品をそのまま組み込んで使用することができる。
これらの中で同社が特に販売に力を入れるのが、今年夏に販売開始予定の新製品、ConnectCore 9Cのようである。この製品は155Mzで動作するARM926-EJ-SベースのNS9360を使用したコアモジュールで、16MBのSDRAM、4MBのFlashメモリを搭載した2.1” x 3.5”サイズの低消費電力動作(450mA @3.3V)ボードになっている。これは、産業オートメーション・システムのような高度な組み込みアプリケーションに向けたソリューションとして販売される。 同社は、今後Net Siliconで開発される新しいNET+ARMプロセッサを使用したモジュールや、802.11a/gやZigBeeなどのワイヤレスLAN、 PCI-Express対応の各種モジュールを幅広く取り揃えてゆく計画のようだ。

日本に本格上陸したRabbit社の8ビット・プロセッサ製品

Rabbit Semiconductor社の8ビット・プロセッサ製品は、かねてから海外誌の広告などでそのブランドである「うさぎ」マークと共に頻繁に目にしてきた。

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Wil Florentino 氏

しかし、何故か日本の専門誌でRabbit社の製品広告を見かけることはなく、製作記事として取り上げられることもなかった。同社の製品群に対する詳細な説明が日本で行われたのは、 恐らくこのイベントが初めてかもしれない。
このイベントには同社の Product Marketing ManagerのWil Florentino氏が来日し、Rabbit Semiconductor製品の概要、販売戦略、今後の開発計画を説明した。
同社の前身は1983年設立のZ-Word, Incで、1999年から自社オリジナルの8ビット・プロセッサとそれを実装したボード製品(RCM)を供給してきたが、 昨年5月にDigi International社に買収されている。現在の主力プロセッサ製品は、Rabbit 3000と呼ばれる、低価格の8ビット・プロセッサ。驚いたのは、このデバイスが0.35ミクロンのCMOSゲートアレイをベースに設計されたもので、しかも製造しているのが8ビットのRISC MPU、AVRファミリを供給しているアトメル社という点だ。Rabbit 3000は最高54MHzのクロックで動作し、内部に8ビットのタイマを10個と10ビットのタイマを1個、56本のDigital I/O(パラレル)と6本のシリアルI/Oを持っている。
同社はこのプロセッサを単体で販売すると同時に、各種のアプリケーションにもすぐに対応できるように、メモリ(RAMおよびFlash)やイーサネット・インタフェース機能を搭載したボードを、ソフトウェア開発ツールや通信プロトコル・スタックなど共に幅広く提供している。同社のソフトウェア開発ツール、「Dynamic C」には、Cコンパイラ、エディタ、デバッガ、TCP/IPスタック、リアルタイム・カーネルOSなどが含まれている。

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会場内に展示されたRabbit4000とRCM4x00

同社が期待する新しいプロセッサが、Rabbit 4000である。このデバイスは0.18ミクロン・CMOSプロセスによる製品で、1.8Vのコア電圧で動作し、最高クロック周波数は58.98MHz。Rabbit3000とは異なり、Rabbit 4000にはイーサネット・インタフェース(MACおよびPHYのDigital部)や8チャネルのDRAMコントローラが内蔵されており、 位相可変PWM出力機能や16ビット・タイマなども組み込まれている。さらに32バイトのRAMによるセキュリティ・モード機能も備えており、 新しい命令の追加などにより全体のコード・サイズの縮小も実現する。同社は、このプロセッサを搭載した各種のボード、RCM4x00ファミリも供給する。

Rabbit社は、これら製品を通信、各種工業用制御機器、データ収集システム、セキュリティ監視装置などの応用分野に販売しており、 各アプリケーションに必要なソフトウェア・ライブラリ、ハードウェア・インタフェース、開発ソフトウェアとプロセッサ搭載ボードをセットにした開発キットをアプリケーションごとに提供している。 現在供給中の開発キットには、Bluetooth、Color Touch Screen、GPRS/GSM、WiFiなどがある。
秋葉原にある、有名なアマチュア、ホビースト向けのパーツ・ショップで、は数年前からPIC、AVR、H8などの8ビットMPUがチップ単体、組立てキット、完成品ボードなどで幅広く売られており、 さながら8ビットMCUブームという雰囲気さえ感じさせる。Rabbit Semiconductorのボードや開発キットも、こうした秋葉原の専門ショップで販売されれば、人気を呼ぶかもしれない。 Digi International社の話によれば、確かに同社の製品がこうしたショップの店頭に近く並ぶそうだ。

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YDKテクノロジーズの松本氏

この他、このイベントでは、神戸コミュニティエクスチェンジ社の小川社長による「ファクトリーオートメーション分野への新しい通信方式の展開計画」という講演、ナシュア・ソリューションズ社による「EATS ASPサービス」の紹介があった。また、YDKテクノロジーズの松本哲明氏(写真)がオープン・ソースのIRON OSの普及を目指すNPO法人、TOPPERS プロジェクトの活動紹介と、Net SiliconのチップとTOPPERS JSPカーネル(μITRON 4.0)ベースをベースにしたYDK社製品、aZealNET AZ9360SDKおよびaZealNET AZ9360KITを紹介し、無事、定刻に終了した。

―リポータ EIS編集部 中村正規

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