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横田英史の読書コーナー

ネット世論操作とデジタル影響工作〜「見えざる手」を可視化する〜

一田和樹、齋藤孝道、藤村厚夫、藤代裕之、笹原和俊、佐々木孝博、川口貴久、岩井博樹、原書房

2023.5.13  10:25 am

 ロシアや中国を中心とした権威主義国家によるサーバー空間を使った世論工作、分断工作、偽情報、プロパガンダなどの実態や今後の見通しなどを論じた書。セキュリティやリスクマネジメント、防衛関連の専門家・研究者とジャーナリストから成る8人の筆者が多角的に考察する。オムニバス形式の書籍はとかく内容と書き口にバラツキがあるが、本書は粒が揃っており、各章の品質は高い。「多様でグロテスク」な国々との付き合い方を考える上で弁えておくべき情報リテラシーについて論じており、多くの方にお薦めの書である。
      
 本書は、「デジタル影響工作とはなにか」「激変する各国のメディア環境とメディアの変容」「日米をはじめとする西側諸国における影響工作とメディアの状況」「ロシアや中国などの権威主義国家によるデジタル影響工作の実際と民主主義への影響」などをカバーする。ここで語られるちなみにデジタル影響工作とは、データサイエンスやアドテクノロジー、AIを駆使してターゲットの行動変容を促す行為を指す。ネットの情報を右から左へと書き飛ばす“こたつ記事”があふれる日本のメディアは、デジタル影響工作の格好の餌食である。危機感や訓練が必要だと指摘する。
       
 ChatGPTの盛り上がりを目の当たりにしている現在、気になるのは生成AIを使ったデジタル影響工作についても触れ、「今そこにある危機」と位置づける。2023年以降に、大量の偽情報があふれ人々が真偽を判断するのを諦める「インフォカリプス(情報の終焉)」が起こるとする。暴動誘発アルゴリズムが開発される可能性を示唆する。インフォカリプスとは、インフォメーションとアポカリプス(黙示録)を組み合わせた、米ミシガン大学のアビーブ・オバディアの造語である。

書籍情報

ネット世論操作とデジタル影響工作〜「見えざる手」を可視化する〜

一田和樹、齋藤孝道、藤村厚夫、藤代裕之、笹原和俊、佐々木孝博、川口貴久、岩井博樹、原書房、p.300、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。