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横田英史の読書コーナー

遅刻してくれて、ありがとう(上)〜常識が通じない時代の生き方〜

トーマス・フリードマン、伏見威蕃・ 訳、日本経済新聞出版社

2018.10.8  4:04 pm

 「フラット化する世界」「レクサスとオリーブの木」などで知られるニューヨーク・タイムズのコラムニストが綴った、技術革新の速さに追いつけない人間社会の問題と実態、対応策を取り上げた書。「何かとてつもないことが起きている」「平均的で普通な人生を送ることが難しくなった」「人間が吸収できる平均的な速度を超えて、ほとんどの人間がついていけなくなり、文化的な不安の原因になっている」と分析する。

 ムーアの法則の説明などEISの読者には冗長と思える部分もあるが、米国の書籍らしく網羅性に富む。筆者は、知的な機械が存在する時代における「人間であることの意味」を問うている。プログラムできない情熱、個性、共感、柔軟性が重要になると語る。常識が崩壊する社会を生き延びるヒントを知りたい方にお薦めの1冊である。

 本書のカバー範囲はとても広い。AI、Hadoop、IoT、SNS、自動運転、ビットコイン、医療や金融における技術革新などなど。線形の変化を前提にした社会システムは見直す必要があると語る。地球温暖化や森林破壊、海水の酸性化、生物多様性の消滅、グローバルな貧困などマイナスの面も多いが、プラス面が上回ると筆者は楽観的である。

 筆者が繰り出すキーワードの1つがテクノロジーの「スーパーノバ(超新星)」。幾何級数的な加速度でエネルギーを放出することで、人工で作り上げたシステムをことごとく変えてしまう。こうした状況を生む転換点になったのが2007年というのが筆者の見立てだ。この年にはiPhoneやKindleが登場し、Airbnbのコンセプトが生まれている。

書籍情報

遅刻してくれて、ありがとう(上)〜常識が通じない時代の生き方〜

トーマス・フリードマン、伏見威蕃・ 訳、日本経済新聞出版社、p.424、¥1944

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。