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横田英史の読書コーナー

キャスターという仕事

国谷裕子、岩波新書

2017.2.9  9:58 am

 クローズアップ現代で23年にわたってキャスターを務めた著者の回顧録。様々な経験と番組への熱い思いを吐露しており、読み応えがある。筆者はキャスターとしてのプロフェッショナルリズムと、目線の置き方としてのアマチュアリズムを併せ持つことの重要性とともに、事の本質を的確に捉え多様化している視聴者に共通の認識の場を与える「言葉探し」の重要性を指摘する。post-truth(ポスト真実)に代表される反知性の風潮が広がる現在のジャーナリズムの在り方を考えるうえで示唆に富む指摘が多く、評者のような人間には必読の書と言える。

 本書を読んで感じるのはテレビというメディアの難しさである。「テレビが伝える真実は映像であって、言葉ではない。話の内容がどんなに大切でも映像のインパクトのほうが優先される」というデイビット・ハルバースタムの指摘は実に的確だ。この指摘に著者は、映像主体のリポートの意味を深掘りする形で、スタジオでのキャスターとゲストの対話を配する。こうすることで、言葉のもつ力を活かそうと目論む。単純化や一元化してしまうことのないように、多様性の視点や異質性の視点を踏まえた問いが重要だと語る。

 筆者はテレビ報道には3つの危うさがあると語る。第1に事実の豊かさを削ぎ落とす危うさ。第2に視聴者に感情の共有化、一体化を促す危うさ。第3に視聴者の情緒や人々の風向きに、テレビの側が寄り添ってしまう危うさ、である。正鵠を射たし敵だ。

書籍情報

キャスターという仕事

国谷裕子、岩波新書、p.256、¥907

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。