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横田英史の読書コーナー

ザ・セカンド・マシン・エイジ

エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー、村井章子・訳、日経BP社

2016.4.15  5:42 pm

 コンピュータをはじめとするデジタル機器の進歩がもたらす変革期「セカンド・マシン・エイジ」について、「機械との競争」で話題を呼んだブリニョルフソンとマカフィーが論じた書。類似のトピックを扱う書が多いが、突出感はないものの上手くまとめているのは確かである。ちなみにファースト・マシン・エイジは蒸気機関の発明による産業革命を指す。産業革命は機械工学や化学、冶金学などを発展させ、人類の進歩に急激かつ持続的な飛躍をもたらした。では「セカンド・マシン・エイジはどうか」。社会にどういった影響を及ぼすのか。これが本書の趣旨である。

 取り上げられているネタは自動運転、クイズ番組、ワトソン、人工知能、ムーアの法則とありがち。人工知能の急速な進歩によるデジタル・イノベーションは、グーグルの自動運転車、チェスやクイズで人間のチャンピオンを圧倒する人工頭脳ワトソンなどに象徴されているものの、まだ序の口に過ぎないと著者は断じる。

 興味深いのは、コンピュータ化などの新技術と生産性の伸びを論じている個所だ。新技術が登場したからと言って、すぐに生産性が向上するわけではない。新技術に若いころ(幼いころ)から慣れ親しんだ新世代が社会の指揮を執ることで、組織やプロセスを見直しや再編、再設計を行われ技術の潜在力をフルに活かせるようになる。単にシステムを導入しただけでは生産性は上がらない。組織や経営の在り方を見直すことが必要だと力説する。

 セカンド・マシン・エイジの経済を測るには、GDPとは異なるモノサシが不可欠である。GDPに現れない無料のモノやサービス、計測できない無形資本財、知的財産、組織資本(ビジネスプロセス、製造技術、組織形態、ビジネスモデル、ユーザー生成コンテンツ)といったものがセカンド・マシン・エイジの特徴だからである。

書籍情報

ザ・セカンド・マシン・エイジ

エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー、村井章子・訳、日経BP社、p.434、¥2367

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。