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横田英史の読書コーナー

下流老人~一億総老後崩壊の衝撃~

藤田孝典、朝日新書

2015.9.2  11:02 am

 最近注目が集まっている下流老人(貧困状態にある老人)の実態を、貧困対策を行うNPO法人の責任者を務める大学教授が紹介した書。ここでいう下流老人とは「生活保護基準相当で暮らす高齢者、およびその恐れのある高齢者」を指す。収入が著しく少なく、十分な貯蓄がなく、頼れる人間がいない老人を意味する。現役時代にそこそこの収入があっても、けっして安心できないことを事実に基づいて明らかにする。読み終えると暗澹とした気持ちになる。

 本書はまず、下流老人とは何か、懸念される問題は何かについて統計データや実例などに基づいて論じる。その後、下流老人の日常生活や下流老人に至る典型的なパターン、下流老人が生まれる社会的な背景、下流老人にならないための留意事項を提示するとともに、下流老人を生まないための制度や政策について提言する。

 本書によると単身世帯の場合、男性は4割近く、女性だと5割以上が相対的貧困となっているという。驚くべき数字である。本書は、テレビや新聞などで取り上げられることが多くなった下流老人の実態をざっと知るうえで、貴重な情報を提供してくれる新書である。

書籍情報

下流老人~一億総老後崩壊の衝撃~

藤田孝典、朝日新書、p.232、¥821

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。