横田英史の読書コーナー
脳科学は人格を変えられるか?
エレーヌ フォックス著、森内薫・訳、文藝春秋
2014.10.20 12:03 pm
心理学、分子遺伝学、神経科学の知見に基づいて人格形成の神秘を明らかにした書。タイトルが秀抜で、つい手を出してしまった。人格は遺伝子だけではなく、経験や起きた出来事をどのように見たり解釈するかによって左右される。環境が遺伝子の働きを強めたり妨げたり、逆に遺伝子が人の経験を左右したり、複雑な相互作用のなかから個々の人生観はつくられる。この書評で取り上げたエピジェネティクスの考え方がここでも登場する。困難や喜びに対する脳の反応を変えることができれば、性格を変えることも夢ではない。
記憶にも気質が作用する。記憶が我々に提示するのは、各自の世界観や利益に合うように、起きた出来事を高度に選択し直したものだという。人間の脳はそもそも未来に希望を抱くように配線されているという指摘も興味深い。筆者はマイケル・J・フォックスやネルソン・マンデラ、ジェフ・ベゾス、トーマス・エジソンを例に挙げ、楽観主義は人間が生き延びるために自然が磨きあげた重要なメカニズムであることを明らかにする。
幸福になる方法は、日々の生活にポジティブな感情をより多く見出すことだという心理学者の見解を筆者は取り上げる。人生に成功したいなら、ネガティブな感情をぜんぶ排除してはいけない。「ネガティブな気持ちを一つ感じるごとに、ポジティブな気持ちを三つ感じる」ようにすることが肝要だ。「ポジティブ3:ネガティブ1」が黄金率である。読むと何となく力が湧いてくる書である。皆さんも、「ポジティブ3:ネガティブ1」の黄金率を励行されてはいかがだろうか。
書籍情報
脳科学は人格を変えられるか?
エレーヌ フォックス著、森内薫・訳、文藝春秋、p.326、¥1728
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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