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横田英史の読書コーナー

<推薦!>背信の科学者たち~論文捏造はなぜ繰り返されるのか?~

ウイリアム・ブロード著、ニコラス・ウェイド著、牧野賢治・訳、講談社

2014.7.4  12:08 pm

 STAP騒動のおかげで2度めの復刻(復刊)を果たした書。原著は1982年に上梓(日本では1988年出版)されているので30年以上も前の著作になるが、今読んでも古さを感じない。科学者による捏造・改竄が、大昔から繰り返されてきたことがよく分かる。筆者はこう語る。「偽りの結果がまことしやかに発表されたり、それが時代の偏見や期待と合致し、さらに、その偽りがエリート機関に属する望ましい資格を備えた科学者が犯したものなら、偽りの結果はやすやすと受け入れられてしまう」「小さな欺瞞(データを整えたり、少しばかり統計をでっち上げたり、都合の良いデータだけを発表したり)は、科学者の世界ではごく普通」と。どこかで見聞きしたような話だ。

 翻訳者による後書きも秀抜で、本書の刊行後に起こった捏造・改竄事件を含め手際よく解説している。ここを読むだけでも価値がある。この書評ではこれまで「国家を騙した科学者~『ES細胞』論文捏造事件の真相」と「論文捏造」を取り上げたが、いずれも単一の捏造事件を扱った書だった。対象が広く、警句に満ちた本書を多くの方に読んでほしい。同時にインターネットの普及によって、科学者の捏造や改竄を検証する環境は大きく変わった。続編を期待したいところだ。

 筆者が取り上げる科学者は多彩である。ガリレオ、ニュートン、メンデル、野口英世といった歴史的科学者から、経歴をはじめ嘘に嘘を重ねた詐欺師のような科学者までと幅広い。学術誌・学会誌に対する見方は厳しい。立身出世主義者の道具と化し、論文の重要性は小さくなる傾向にあると指摘する。そもそも、科学論文のおよそ半分は発表後1年以内に一度も引用されることはない。チェックや追試はもとより、読まれることすらないのだ。本書を読むと科学者の捏造・改竄には一定のパターンが存在することが分かる。同時に、STAP細胞事件もここまでの経緯はこのパターンをなぞっていることも分かり興味深い。

書籍情報

背信の科学者たち~論文捏造はなぜ繰り返されるのか?~

ウイリアム・ブロード著、ニコラス・ウェイド著、牧野賢治・訳、講談社、p.354、¥1728

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。