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横田英史の読書コーナー

史上最大の決断~「ノルマンディー上陸作戦」を成功に導いた賢慮のリーダーシップ~

野中郁次郎、荻野進介、ダイヤモンド社

2014.6.25  12:21 pm

 第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦の計画・実行プロセスを丹念に追いながら、成功の原因をリーダーシップの観点から分析した書。野中郁次郎らしいキレの良い経営論に仕上がっている。チャーチル、ルーズベルト、ド・ゴール、ヒトラー、スターリンなど各国のリーダーが登場するが、本書の主役は「偉大なる平凡人」「最も普通ではない状況に置かれた最も普通な人」のアイゼンハワーだ。連合軍の最高指揮官として、どのような決断を下し、どのように行動したかを詳細にたどり、リーダーとしての非凡さを明らかにする。本書はリーダシップ論として役立ち感があるだけではなく、歴史書としても読み応え十分だ。豊富で大判の写真と図をながめるだけでも楽しめる。

 本書は、アイゼンハワーのリーダーシップのなかに、アリストテレスが提唱した「フロネシス」と呼ぶ実践知を見出す。フロネシスとは、社会が信じる共通善の実現に向かって、物ごとの複雑な関係性に目を配りながら、タイムリーかつ絶妙な判断を行う力を指す。フロネシスを備えたリーダーこそが、情報不足のなかでも最善の決断を下せるとする。本書はフロネシスに欠かせない六つの能力の視点から、アイゼンハワーのリーダーシップを分析している。

 本書の主役はアイゼンハワーだが、筆者はチャーチルにも高い評価を与える。チャーチルにはフロネシスが備わっていると同時に、歴史に学んだ構想力によって未来予測能力に卓越していたと断じる。チャーチルが語った「歴史を遡って洞察するほど、より遠くの未来が見えてくる」「歴史に学べ、歴史に学べ。国家経営の秘訣はすべて歴史の中にある」といった言葉はさすがに重みがある。

書籍情報

史上最大の決断~「ノルマンディー上陸作戦」を成功に導いた賢慮のリーダーシップ~

野中郁次郎、荻野進介、ダイヤモンド社、p.392、¥2376

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。