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横田英史の読書コーナー

完全なるチェス~天才ボビー・フィッシャーの生涯~

フランク・ブレイディー、佐藤耕士・訳、文藝春秋

2013.4.16  12:00 am

 チェスに詳しくないので、本書の主人公で元世界チャンピオンのボビー・フィッシャーについてはまったく知らなかった。本書は、そのフィッシャーが波乱に富んだ人生を丹念に追った評伝。日本との関係をはじめ、へ~っという逸話がてんこ盛りで実に面白い。フィッシャーがIQ180の天才であると同時に変わり者だったのは間違いないところだが、マスメディアによって誇張されていたのも事実である。筆者はKGBやFBIのファイル、手紙などを読み込むとともに数百人にのぼる関係者に取材することで実像を描いている。500ページを超える大著なので、さすがに一気に読み通す訳にはいかないだろう。ゴールデンウィークなど比較的長く休めるときお薦めしたい。
 フィッシャーの生涯は波瀾万丈である。13歳で米国チャンピオンになり、さらに冷戦下で国家の威信をかけたソ連のチェスプレイヤーとの闘いに勝ち世界チャンピオンになったものの、奇行や反米・反ユダヤ的な言動、失踪、極貧の生活、日本での潜伏生活と逮捕、法改正まで行ったアイスランドへの移住など後半生の転落は凄まじい。
 チャンピオン後に10億円超のファイトマネーを提示された防衛戦を拒否し失踪する。再び姿を現すまでに20年の空白期間がある。1992年に姿をみせ宿敵と対局し勝利をおさめたものの、再び失踪。次に登場するのは何と成田空港である。米国が経済制裁を行っていたヘルツェゴビナで対局したことが原因で、米国政府の要請によって逮捕されたのだ。常人には理解しがたい行動の数々だ。ちなみに、フィッシャーを「チェスの世界のモーツアルト」にたとえる羽生善治の解説が巻末に掲載されているが、これがなかなかな秀抜である。

書籍情報

完全なるチェス~天才ボビー・フィッシャーの生涯~
フランク・ブレイディー、佐藤耕士・訳、文藝春秋、p.525、¥2,625

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。