Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

コンピューティング革命としてのクラウドロニクス――“未来予測レポート”著者・田中栄氏が語る15年先を知るためのキーワード

2016.3.8  4:06 pm

スマホでスパコンを動かす時代―。クラウド・コンピューティングの世界は、「モノ+サービス」の提供へとプロダクトの概念が変わってきている。社会が構造的に変化していく中、これから15年先の間で起こる変革のキーワードを取り上げる。

*本記事は、2016年2月24日に実施されたBCN×アプレッソ主催セミナーでの(株)アクアビット代表取締役・田中栄氏の基調講演『未来予測2016-2030 〜コンピューティング革命としての「クラウドロニクス」〜』の内容から紹介する。


社会の構造的な変化をもたらす3つのメガトレンド

「メガトレンド」は社会の構造的な変化をもたらす潮流を指すが、この先3つのメガトレンドが起こるという。

未来社会を創る3つのメガトレンド(※未来予測2015-2030パンフレットより抜粋)


サステイナビリティ」は“足りない”がビジネスの新しい前提になる、というもの。「15年先、象徴的なのは中国を抜いてインドが人口No.1になる。もうひとつ中国ができることになり、加えて経済成長が重なるとあらゆるモノの需要が急増する。安く大量につくれば売れるという時代ではなくなり、ものづくりが変わるということになる」

ライフ・イノベーション」は、いま注目されているゲノム技術が軸となるメガトレンド。「ゲノムは解明が進み、テクノロジーで改変すら可能になっている。直接的には医療、農業を革命的に変えることになる。われわれの価値観、ライフスタイルも大きく変えるものになる」

クラウド・コンピューティング」もっとも大きく影響されるメガトレンドと位置づけ、「その理由はコンピューティングの革命だから。ブロードバンドを前提としたサービスが全産業に直接的な影響をもたらし、ビジネス全体を変えるものになる」


ICTから「クラウドロニクス」へ

なぜブロードバンドが必要なのか? その本質は“映像”を流すためにある。あらゆるモノがインターネットにつながってくるIoTにしても、一部に過ぎないという。「皆さんが使っている携帯電話やスマホは、デバイスを使っているのではなくシステムを動かしている。ブロードバンドで常時つながるのが当たり前という世界があるからできたもの。これからのエレクトロニクスは、コンピューティングと一体。それを“クラウドロニクス”と言っている」

「ブロードバンドでつながるデータセンターは、構造的にはスパコン。いろいろなデバイスやセンサ、テレビ、家電、自動車などあらゆるものがブロードバンドにつながってくるが、それらにサービスを提供するのがデータセンターだ。サーバではなくコンピューティングそのもので、これからはデータセンターモデルとブロードバンドを通じてサービスを提供する。モノからサービスへとプロダクトの概念は変わってきている」


クラウドロニクス・プラットフォームと人工知能

クラウドにおけるデータセンターは、単なるデータ処理装置ではない。AWSやMicrosoft Azureなどのように開発環境であり、フェイスブックで世界の14億人とコミュニケーションできるマスメディアであり、サーバに取って代わるストレージ、Siriに代表されるようなインターフェースを備えたエージェントといった新しい存在となる。

「ある一定水準以上になると、必ず必要になる技術が人工知能だ。人工知能がサービスとして提供される象徴的なコミュニケーションに『HOUND』(音声アシスタントアプリ)、『スカイプ(Skype)』の同時通訳サービスなどがある。こうした人工知能のサービスが、パソコンはもちろん、家庭でも車でも当たり前のように提供されるようになる」


メニーコアは技術的なターニングポイント

技術的なターニングポイントとして挙げられるのがマルチコア、メニーコアの世界が始まっていることだという。

「クライアント側、データセンター側でメニーコアが当たり前になってきた。メニーコアでは、シングルコアでのハードによる性能追求から、組込みなどソフトが必要になり、ハードとソフトのコラボレーションが重要になってくる。求められる技術も変わってくる中で、うちはシステムしか分からない、クライアント側しか分からない、ということでは問題だ。技術的な視野をもっと広げて発想していく時期にきている」


ビジネス・産業の変化の象徴:トリプル・ベロシティ

すでに産業、業界の形が変わり、ビジネスが変わり始めている。どの産業でも、コンピューティングなしには事業戦略は考えられない。ブロードバンド+スパコン+エレクトロニクス(デバイス、センサ)が一体となったクラウドロニクスが産業の土台を形成する。さまざまな産業の一部がデジタルサービス化し、重なり合っていくものとなる。

クラウドロニクス産業という巨大な産業が生まれようとしている(※未来予測2015-2030パンフレットより抜粋)


全産業に関わる象徴として、ビジネスの3つの潮流の変化を挙げる。

 ・商流(マーケティング):パーソナル中心へ / 双方向のつながり
 ・物流(配送・小売):即日配送 / ショールーミング
 ・金流(投資・決済):決済手数料ゼロ / 世界中どこでも瞬時に

「商流では、例えばフェイスブックで大阪に住む40代の花好きな人だけに情報を伝えることもできる。文字でも映像でも自分でつくれるからコストは桁違いに安くなる。物流は、大都市圏なら2時間以内に商品が届くことが当たり前になる。金流は、すでにクラウドファンディング、ソーシャルレンディングなど数億単位でお金が集められる時代。世界中でリアルタイムにコミュニケーションができることで、ビジネス全体が変わってくる」

・未来予測2015-2030 レポート&デジタルサービス
http://www.miraiyosoku-service.jp/

・田中栄氏 FB個人ページ
http://www.facebook.com/sakaet