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横田英史の読書コーナー

脳・心・人工知能〈増補版〉〜数理で脳を解き明かす〜

甘利俊一、ブルーバックス

2025.9.19  7:01 am

 生成AIや深層学習、機械学習の興隆に大きな貢献をした数理工学者 甘利俊一の手による人工知能に関する啓蒙書。最近の生成AIブームを踏まえて、新たに3つの章を追加した増補版である(初版は2016年出版)。追加した3章では、それぞれ「現代AIの基本技術〜深層回路網と生成AI」「心と意識〜AIは心を持つか」「AI時代の文明と社会」と、時宜にかなったテーマを取り上げる。
      
 筆者は、2024年のノーベル物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントンやジョン・ホップフィールドに先んじて、誤差逆伝播法と連想記憶モデルを提唱した科学者。AI興隆の源流と再評価されている人物である。本書で筆者は、「人工知能と神経回路網の理論研究の源流は日本にもあり、その成果が国際的に活かされてAI時代を迎えた」と述べる一方で、日本の研究が国際的には十分に認知されていないことに不満を漏らす。
       
 筆者は、宇宙の始まり(ビッグバン)から本書を説き起こし、地球の誕生、生命の始まり、脳の誕生、人類の歩みへと議論を展開し、最終的に「脳とは何だろう」「心とは何だろう」「脳とコンピュータの類似性」など自らの研究領域に読者を誘う。確率的勾配降下法(誤差逆伝播法と同じ)と連想記憶モデルについて、初学者にも分かりやすく解説する。数式が登場するが、読み飛ばしても大勢に影響はない。
      
 このほか、「シンギュラリティは信じない」「人類は、人工知能をパートナーとして新しい文明を発展させることができる」「日本の学界が今から世界の流行を追っても勝ち目はない。日本独自の構想で学問として優れた人工知能を築くべき。日本はリソ論の世界では戦える」と持論を語る。

書籍情報

脳・心・人工知能〈増補版〉〜数理で脳を解き明かす〜

甘利俊一、ブルーバックス、p.288、¥1210

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。