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横田英史の読書コーナー

となりの史学〜戦前の日本と世界〜

加藤陽子、モリナガ・ヨウ(イラスト)、毎日新聞出版

2025.9.13  7:00 am

 歴史の面白さを感じさせてくれる書。日本と中国、日本とソ連、日本と英国、日本とドイツといった2国間の関係史について、双方の歴史学者の論考を比較検討する。戦争に至る過程で、双方で何が起こっていたのか、双方の国家の指導者の意図や人々の意識はいかなるものだったかについて、第一線の歴史学者が利用可能な史料や記録で明らかにする。日本と他国(本書の場合は中ソ英独)から見た歴史観がこれほど違うのかと驚かされてしまう。
     
 本書は、日本近現代史を専門とする筆者が東京大学出版会のPR誌「UP」に掲載した小論と、イラストレーターが各章の内容をまとめたグラレコで構成する。各章は長からず、短からず良い塩梅で読みやすい。「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」や「戦争まで」などで知られる筆者の豊富な知識はさすがである。グラレコやコラムもアクセントになっており楽しめる。
     
 面白いのは、ロシア史学が提示する「パラレル・ヒストリー」の考え方。二国間において、双方がそれぞれの歴史観を提示し、理解を深める手法である。違いを認めたうえで、相手の考え方や行動の理解に努める。本書を読むと、戦争の決断において、日本と相手国で認識に大きな齟齬があったことがよく分かる。スターリンが日本に対して、「野蛮」「ならず者」といったイメージを持っていたというのも本書で初めて知った。日本とロシアで、両国民には力への敬意、他国民への猜疑心および不信感、集団組織と集団思考への共通点があるというのも興味深い。

書籍情報

となりの史学〜戦前の日本と世界〜

加藤陽子、モリナガ・ヨウ(イラスト)、毎日新聞出版、p.320、¥2200

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。