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横田英史の読書コーナー

勝負師 孫正義の冒険(下)

日経BP 日本経済新聞出版、ライオネル・バーバー、村井浩紀・訳

2025.9.8  6:59 am

 異形のビジネスマン「孫正義」の深層に迫ったノンフィクションの下巻。孫の行動パターンと行動原理に迫っており、読み応えがある。下巻では、中国アリババや英ARMへの巨額投資の大成功、ボーダフォン買収による携帯事業参入とiPhoneの国内独占販売、ウィーワークス投資の大失敗、ビジョンファンドの栄光と苦境、OpenAIなどと組んだスターゲートプロジェクト、後継者争いに至るまで盛り沢山である。経営判断や意思決定の難しい状況の連続で、タイトルの「勝負師」の面目躍如である。上下2巻で600ページを超えるが、翻訳も良いので意外に早く読み終えることができる。
      
 筆者は英フィナンシャル・タイムズ紙の前編集長。3年にわたり、孫と孫の周辺への取材をベースにした多角的な分析は納得感がある。リスクを恐れず突き進む孫の投資・買収スタイルと目もくらむような金額を批判的に捉える。例えば「巻き散らせば当たる」とばかりに資金を投じるビジョンファンドの姿勢を疑問視する。一方で、巨大なリスクテイカーであると同時に、テクノロジーに対する楽観主義者としての孫については高い評価を与える。
       
 人間・孫正義についての分析は興味深い。共感能力(エンパシー)が欠如し、自分の論理に固執するとして、孫の人間性に疑問を投げかける。力のある者たちが歴史を作るというビッグマン理論を信じており、トランプやプーチン、金正恩と同類だと断じる。アクティビストとの会議で孫が放った「(ザッカーバーグやゲイツは、私と同じ立場にはない。正しい比較対象はナポレオンであり、チンギス・ハーンであり、秦の始皇帝だ。私はただのCEOではない。帝国を築きつつある」という発言は凄まじい。

書籍情報

勝負師 孫正義の冒険(下)

日経BP 日本経済新聞出版、ライオネル・バーバー、村井浩紀・訳、p.328、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。