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横田英史の読書コーナー

勝負師 孫正義の冒険(上)

日経BP 日本経済新聞出版、ライオネル・バーバー、村井浩紀・訳

2025.8.31  6:55 am

 異形で異様なビジネスマンといえる「孫正義」の深層に迫ったノンフィクションの上巻。在日という孫の生い立ちに迫り、その行動パターンと行動原理を探る。孫の評伝といえば佐野眞一の「あんぽん」(小学館)が有名だが、本書はビジネスにおける意思決定とその背景に焦点を絞ったところに特徴がある。ちなみに前者は、叩かれても叩かれてもへこたれない「孫のいかがわしさの根源を探ること」を目的に書かれており、本書と併せて読むと孫の実像がよりハッキリと浮かび上がってくる。
      
 筆者は英フィナンシャル・タイムズ紙の前編集長で、3年の期間と150人あまりへの取材をもとに本書を執筆したという。21世紀最強の大立者(モーグル)と持ち上げる一方で、基本的に孫の常識外れのビジネス手法を「うさんくささを撒き散らし、危ない橋をわたる」と批判的に分析する。孫の経営は、日本財閥を真似た企業連合、シリコンバレーのスピードとネットワーク化された関係性、ウォール街とシティで導入された投機的で報酬目当ての価値観を組み合わせたものと結論づける。
      
 上巻の本書でカバーするのは、孫が大化けする前の時代である。ソフトウェア卸売会社であるソフトバンクの設立、米国企業の買収(ジフ・デイビスの出版部門、展示会コムテックス)、ヤフーやアリババへの投資、ヤフーなど最先端インターネット関連ビジネスを見出し日本国内で展開などを対象とする。
      
 このなかではアリババへの投資の成功が、その後の心理的な呪縛になったというのが著者の見立てである。その後の20年間にわたって、第2のアリババを探すことに費やし、アリババへの投資がまぐれ当たりでなかったことを説明しようと必死だったと著者は分析する。

書籍情報

勝負師 孫正義の冒険(上)

日経BP 日本経済新聞出版、ライオネル・バーバー、村井浩紀・訳、p.352、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。