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横田英史の読書コーナー

内務省〜近代日本に君臨した巨大官庁〜

内務省研究会、講談社現代新書

2025.8.10  6:48 am

 内務省と言われて頭に浮かぶのが、内務・警察官僚だった後藤田正晴。中曽根政権の官房長官として、総理大臣に意見した硬骨漢で強面の印象がある(選挙違反でも有名)。その出身母体の内務省の誕生(1873年)から消滅(1947年)までを概観した書。内務省にまつわる人物を軸に、大蔵省や政党、軍人との確執を綴る。淡々とした筆致だが、歴史の中での位置づけを分かりやすく描く。新書としては異例の550ページ超と大著であるものの、その長さを感じさせない。明治維新後から敗戦までの行政に興味のある方にお薦めの1冊である。
     
 内務省のカバーする範囲は、現在の警察庁、総務省、国土交通省、厚生労働省、都道府県知事、消防庁などなど。恐ろしく巨大である。外務省の外に対する内(うち)を務める官庁として、日本国内の行政のほぼすべてをカバーする。大学を卒業して内務省に入り、府県での職務経験を経て他省に移る官僚人事パターンが生まれ、内務省を中心とした官僚制のネットワークが築かれた。「省庁のなかの省庁」という表現も大げさとはいえない。
     
 本書は大きく通史編とテーマ編から成る。通史編では、誕生から内務省優位の時代、政党政治の盛衰と内務省、内務省の衰退などを描く。後半のテーマ編は実に多彩である。地方行政、神社宗教行政、警察行政、衛生行政、土木行政、社会政策、内務省と軍部、防災行政、港湾行政などをカバーする。本書で驚くのは、多くの著者が参加したオムニバス形式にありがちな質のバラツキが少ないこと。一人の筆者の如くレベルが揃っており、本書の読みやすさにつながっている。

書籍情報

内務省〜近代日本に君臨した巨大官庁〜

内務省研究会、講談社現代新書、p.550、¥1650

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。