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横田英史の読書コーナー

土と内臓〜微生物がつくる世界〜

デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー、片岡夏実・訳、築地書館

2025.7.27  8:21 am

 微生物が土壌と人間の健康に果たす役割を論じた書。植物の根と人間の内臓(特に大腸)を支える微生物の働きぶりを紹介する。人体と自然の巧妙なメカニズムには驚かされる。人間は植物と同じ生物学的防御戦略に組み込まれている。「ヒトの消化管をひっくり返すと植物の根と同じ働きをしている」と語る。筆者は地質学者と生物学者の夫婦だが、必ずしも専門とはいえない領域を上手く料理する。
      
 土の生産力から人間の免疫系までを巧妙に操る微生物には驚かされる。腸内では多くの微生物が生態系を築き、人体と共生する。植物を分解して人間に必要な栄養素や化学物質を作り病原体から人物を守っている。植物の根でも同様なことが起こっている。微生物は根と共生して病原体を撃退したり、鉱物系の栄養分を吸収できる形に変える。
      
 筆者は、微生物の生態系に大きなダメージを与える化学肥料と抗生物質の問題にも言及する。化学肥料はその場しのぎで、即効性はあるが持続性に欠ける。害虫の復活や土壌の肥沃度の低下を招く。抗生物質は耐性菌を生み、人類に厄災をもらたす。筆者は、自宅の庭の土作りや自らのがん体験を導入部に、ディープで科学的な話を分かりやすく展開する。2016年出版の書でずっと気になっていたが、ようやく読み終えることができた。予想を裏切らない内容で読後の満足度は高い。

書籍情報

土と内臓〜微生物がつくる世界〜

デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー、片岡夏実・訳、築地書館、p.392、¥2970

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。