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横田英史の読書コーナー

ポピュリズムの仕掛人〜SNSで選挙はどのように操られているか〜

ジュリアーノ・ダ・エンポリ、林昌宏・訳、白水社

2025.6.30  8:10 am

 ポピュリズムが一国の政治を揺さぶり席巻する仕組みを明らかにした書。ポピュリズムの起源からその戦略までを明らかにする。内容は示唆に富み、勉強になる。筆者が挙げるイタリアやハンガリー、英国といった欧州の事例は生々しく非常に刺激的である。トランプやボリス・ジョンソン、オルバーン・ヴィクトル(ハンガリー)、イタリアの政党「5つの星運動」を裏で操る仕掛け人のずる賢い行動は驚愕だ。胸糞悪くなる内容だが、我慢して読み進む価値がある。日本にもポピュリズムの足音が高まるなか、いま読むべき1冊だろう。
      
 ポピュリストの背景には、スピントラクター(情報を操作する者)、理論化、科学者、ビックデータの専門家が存在し、彼らが跋扈する様子を本書は活写する。彼ら・彼女らは怒りの感情をアルゴリズムで煽り、民主主義をカオスに陥れる。「政治を進化させたいなら、政治学者や広報担当者ではなく物理学者を使うべきだ」とうそぶく。
       
 アルゴリズムに基づくポスト・イデオロギー型テクノポピュリズムと呼ばれ、イタリアの政党「5つの星運動」の話は管見にして知らなかった。インターネットによって政治革命を起こせると気づいたマーケティング専門家ジャン・ロベルト・カサレッジオが先導した。5つの星運動には展望も計画もなければ、前向きな提言も存在しない。存在するのは、「国民の話題になりそうなテーマ」を掲げ、民意を得るために構築されたアルゴリズムだけである。
       
 本書を読むと、ドナルド・トランプが分断の原因ではなく、仕組まれた分断の結果ということがよく分かる。SNSを使って激しい感情を掻き立てる「熱い話題」を大衆に常時提供する。「SNSを使って連日騒動を起こす」という原則でポピュリストは動く。メディアはポピュリストを宣伝する拡声器の役割を果たす。まさに「善人なら頭に浮かばないことを思いつくのが悪人」(ウディ・アレン)である

書籍情報

ポピュリズムの仕掛人〜SNSで選挙はどのように操られているか〜

ジュリアーノ・ダ・エンポリ、林昌宏・訳、白水社、p.210、¥2420

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。