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横田英史の読書コーナー

迷走するボーイング、ピーター・ロビソン

茂木作太郎・訳、並木書房

2025.5.30  7:58 am

 技術と人命を蔑ろにした巨大企業・米ボーイングの破滅までの過程を丹念に追ったノンフィクション。技術者の魂を失ったメーカーの末路が語られる。技術と品質重視の技術者集団だった米ボーイングは、GE(ジャック・ウエルチ)流のコストカッターに乗っ取られ利益追求と株主優先に走った。コスト削減に血道を上げ、品質は徹底的に軽視された。さらに監督する立場にあるはずの米国航空当局は当事者能力と意識を欠いた。こうした要因が重なって、346人もの乗客乗員が犠牲となった「ボーイング737MAX8」の墜落事故につながった。
     
 筆者は米ブルーンバーグの記者で、737MAX8の設計から認証、生産にいたる8年間に焦点を当て、ボーイング社内の意思決定プロセスや安全性管理の問題、FAA(連邦航空局)の責任を追及する。当事者の証言や裁判記録、当時かわされたメールなどに基づいた語り口は迫力がある。737MAX8はエアバスに後れを取ったボーイングのあせりが生んだ、その場しのぎの“欠陥機”と断じる。価格を見かけ上安く見せるために、ボーイングは警報装置を含め多くの機能をオプションにした。新規のシミュレータも開発せず、航空会社の乗員のトレーニングもおざなりである。
      
 最近はオートパイロットに頼るパイロットが少なくないが、737MAX8は自動操縦の機能がそもそも乏しい。緊急マニュアルもおそまつである。最新鋭機は電子チェックリストを装備し、緊急時の対処法がディスプレイに表示される。ところが737MAX8は乗員が紙のマニュアルで取り出し、緊急事態のなか対応箇所を探すことになる。優良企業だったボーイングが、ここまで堕ちたことに驚きを感じざるを得ない。

書籍情報

迷走するボーイング、ピーター・ロビソン

茂木作太郎・訳、並木書房、p.404、¥2420

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。