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横田英史の読書コーナー

記憶の深層〜〈ひらめき〉はどこから来るのか〜

高橋 雅延、岩波新書

2024.10.21  11:57 am

 人間の記憶について心理学の立場から研究している認知心理学者が、記憶の仕組みと記憶力を高める方法を科学的なエビデンスに基づき紹介した書。円周率を10万桁まで覚えた人の記憶法など、具体例を豊富に鏤め(ちりばめ)ており理解を助けてくれる。
      
 筆者は、人間とはモノゴトに必ず何らかの意味を求める生き物だとする。そのため、意味のないものは記憶しにくい。記憶を確実にするには、目の前の事柄を丸呑みするのではなく、その意味について多面的に考えて記憶に定着させることが有効だという。また一度にインプットするのではなく、時間を開けて分散させる方が効率的だ。時間を開けることで、「思い出す」というアウトプットのプロセスが挿入され、記憶の定着が促される。
       
 絵や写真といったイメージと関連付けて覚えることも、記憶を向上させる上で効果的だという。構造的に覚えることも、連想によって思い出すことにつながり、時間とともに記憶が薄れることを抑えられるという。過去の記憶には体験した際の無数の連想がまとわりついている。この連想が手がかりとなって、忘れていたことの記憶がよみがえる。

書籍情報

記憶の深層〜〈ひらめき〉はどこから来るのか〜

高橋 雅延、岩波新書、p.224、¥1012

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。