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横田英史の読書コーナー

「モディ化」するインド〜大国幻想が生み出した権威主義〜

湊一樹、中公選書

2024.9.26  11:47 am

 世界最大の人口、グローバルサウスの盟主、世界最大の民主主義国家などと称されるのインドの“闇の部分”を暴いた書。ジェトロ(日本貿易振興機構)の職員が、歪められたイメージで語られる「不思議の国」とモディ政権のインドを厳しく非難する。知られざるインドの内情は実に面白いし、役立ち感にあふれる。2024年の総選挙における、モディ首相率いる国政与党インド人民党(BJP)の敗北を予想したかのような内容である。
     
 モディ政権が支配するインドでは個人崇拝とヒンドゥー至上主義、権威主義が浸透し、民主主義は大きく後退したという。自由、人権、法の支配といった普遍的な価値観の侵食が進んだ。日本政府が対中国の観点から、インドを「普遍的価値を共有するパートナー」と強調し続けることは誤りであり、実態の伴わない空疎な外交辞令だと批判する。
     
 モディ政権の経済政策「モディのミクス」は失敗しており、超大国への道をひた走っている見方は現実離れしている。実体からかけ離れた幻想に過ぎないと手厳しい。ヒンドゥー至上主義にも批判の矛先を向ける。イスラム教徒をはじめとする宗教的少数派に対する差別と迫害が格段に進んだ。さらにヒンドゥー至上主義的な国家観・社会感がもたらす貧困層に対する政治的無関心や専門知の軽視を問題視する。
     
 この書評で昨年、バランスの良い入門書として「インド〜グローバル・サウスの超大国〜」を取り上げたが、本書はインドの内実に一歩も二歩も踏み込んでいる。貴重な情報がふんだんに盛り込まれており、お薦めである。インドでのビジネスを考える方には必読の書だろう。

書籍情報

「モディ化」するインド〜大国幻想が生み出した権威主義〜

湊一樹、中公選書、p.296、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。