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横田英史の読書コーナー

仕事と人間(下)〜70万年のグローバル労働史〜

ヤン・ルカセン、塩原通緒・訳、桃井緑美子・訳、NHK出版

2024.9.15  11:42 am

 労働史を専門とする歴史学者が、狩猟採集の時代から現代に至るまでの労働の系譜を扱った書。人間はどのように働いてきたか、働き方はどのように変化してきたかを、人類史の中で位置づけながら探る。下巻では産業革命を経て、経済のグローバル化とともに労働環境がグローバルで収斂していく流れを描く。今後、AIやロボットの興隆によって労働環境は大きく変化するが、70万年の労働史からは意義、協力、公正という3つの大原則が導かれると断じる。
     
 下巻はアメリカ大陸やアフリカにおける労働の変化から始まる。ヨーロッパの海洋進出によって労働関係に変化が生じた。特に奴隷労働と奴隷貿易に焦点を当てて筆を進める。奴隷制度や奴隷貿易の転換点となったのはハイチ革命であり、各国で奴隷制度の見直しや廃止が進んだ。次にロシアを含む東ヨーロッパに視点を移す。ここで取り上げるのが農奴制である。巨大帝国・ロシアを支えたのが農奴と農民兵だったいう。
      
 産業革命を経ることで、世界の労働関係は互いに似通ったものに収斂した。非自由労働が激減し、賃金労働が突出した存在となった。仕事と余暇の関係が大きく変容し、消費に一大変革をもたらした。賃金の上昇によって、子供を働かせる必要がなくなり義務教育の普及につながった。労働に関する法律や規制が絶えず修正されたのも産業革命以降の特徴である。
      
 人類の労働の歴史を俯瞰する大著(上下で1000ページ弱)だが、翻訳は平易で読みやすい。夏休みや正月休みなど、まとまって休暇が取れるときの読書にお薦めである。

書籍情報

仕事と人間(下)〜70万年のグローバル労働史〜

ヤン・ルカセン、塩原通緒・訳、桃井緑美子・訳、NHK出版、p.448、¥3520

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。